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霊群の杜
輪入道 前編
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「居場所は何とも…だが『車輪の顔』に心当たりが少々」
奉は俺に目配せをすると、羽織を翻して居間を後にした。俺も少し遅れて後を追ったのだ。

「心当たりって何だ。車輪の顔って」
息を切らして石段を登りながら、聞いた。奉は黒い水が下から上へ流れるかのように、すいすいと石段を上る。12月も半ばに入り、夜明け前だというのに、夜通し走った体が熱い。こんな非常時だというのに、今すぐ倒れ込みたい。
「車輪の顔が口にしたという言葉」
…ああ、なんじがあこを…とかいう奴か。
「汝が、吾子を見よ、だ」
「……は」
「俺を見る暇があれば、お前の大事な幼子を見よ。そんな意味だねぇ」
「古語か?」
「この言い回しを好む妖を、俺は知っている」


輪入道だねぇ、と奉が呟いた。


「かつて京都に出没したと云われる妖でねぇ。…真夜中、外の通りから車輪の軋る音がする。興味を覚えた女がそっと戸をあけて覗くと、燃えさかる牛車の車輪に、むくつけき入道の顔がはめ込まれて軋りながら転がっている。女が恐怖に息を呑んでいると、入道は女に怒鳴りつける」
「汝が吾子を見よ、と?」
「女が振り向いた時には既に時遅し。吾子の脚は無残に引きちぎられていた…そんな話よ」
「胸糞悪い妖だな」
「そうだねぇ…胸糞悪いねぇ」
そう呟き、奉は冷えた岩戸に手を掛けた。…おい、ちょっと待て。
「何故、ここに来たんだ?お前心当たりがあるって云ったじゃないか!」
奉は構わずに岩戸を押し開けると、一緒に俺も引きずり込んだ。


「お疲れさま、召し上がってください」
岩戸の奥には、俺達を待っていたかのようにきじとらさんが茶を注いだ湯呑を盆に乗せて佇んでいた。
「茶なんて呑んでる場合じゃ」
「お前が焦ってどうする。…茶を呑め、そうしたら説明する」
「呑んだら説明するんだな!?」
俺は湯呑をひったくるようにして呑み干した。…いつ淹れた茶なのか、一気に呑み干しても熱くない。というより、呑み干すことを前提に淹れられたかのような…。
「…さぁ呑んだぞ、説明を」
説明をしろ、と奉に詰め寄ろうとした刹那、頭の中がぐるりと渦を巻いた。…くそ、こんな時に立ちくらみか。
「これはいけないねぇ。結貴、どっかその辺に適当に横になれ」
「……横になってる場合じゃ……」
立ちくらみが嵐のように襲い掛かってきている。必死に抵抗した。小梅が居なくなった、姉貴が泣いているんだぞ…その全ての思考が、渦の中に投げ込まれていくような虚脱感が押し寄せて来て、俺の意識はあっけなく…。



眠気の渦から這い上がって目を覚ましたその時、俺は硬質な床に転がされている事に気が付いた。
「……ん?」
おかしい。ここは奉の洞じゃないぞ。
2,3回首を振って眠気を完全に飛ばすと、俺は改めて自分の居
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