巻ノ九十四 前田慶次その九
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「だからな」
「言葉よりもですな」
「実際に手合わせをして覚えてもらう」
「さすれば」
「これよりはじめるぞ」
「お願いします」
「そしてじゃが」
慶次はさらに言った。
「わしは一切手を抜かぬが」
「まさに戦そのものの」
「激しい稽古じゃ、わしは稽古は戦と同じだと思っておる」
この考え故にというのだ。
「一切手は抜かずな」
「そうしてですな」
「全力で最後の最後までやるぞ」
「命賭けで」
「向かうから一切気を抜かずにもらいたい」
「では」
伊佐も頷いた、そのうえでだった。
慶次と伊佐は道場で棒を手にぶつかり合った、それは戦の場での死合と全く変わることはないものだった。
突き振るい急所を狙う、二人は獣の殺し合いの様にぶつかり合った、だが二人のそれぞれの顔はというと。
涼やかだった、澄み切ってさえいてだった。
その顔で稽古をする、汗だけでなく血も出るが。
二人は稽古を続けた、そして二人共動けなくなるまでやってだ。慶次はその稽古の後で伊佐に対して言った。
今は夜で酒を飲んでいる、幸村と三人で屋敷の縁側でそれを楽しみつつ言うのだった。
「酒はよいのう」
「はい、拙僧もです」
伊佐は彼の言葉では般若湯を飲みつつ慶次に答えた。
「好きでして」
「真田殿と共にじゃな」
「主従十一人よく集まってです」
「飲まれているか」
「左様です」
「そうか、貴殿等は主従であるが」
「それと共にです」
伊佐は自分から言った。
「友であり」
「そしてじゃあな」
「義兄弟でもあります」
「そうした間柄じゃな」
「ですから酒もです」
それもというのだ。
「よく共に飲んでいます」
「そうじゃな」
「この様にしてです」
「絆は深いか」
「その自負があります」
「それは何よりじゃ、わしもな」
ここでだ、こうも言った慶次だった。
「友となってくれる者はいてくれてのう」
「直江殿にですな」
「そして結城殿じゃ」
「結城殿といいますと」
幸村が応えた。
「やはり」
「うむ、大御所殿のご次男のな」
「あの方ですか」
「あれで見事な気質の方でのう」
結城秀康、彼はというのだ。
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