巻ノ九十四 前田慶次その七
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「それも天下のじゃ」
「大不便者であると」
「そのわしに会いに来てくれたからにはな」
「応えて下さるのですか」
「そうする、そしてじゃ」
慶次はこうも言った。
「貴殿達は幕府の為に使わぬな」
「備えた術を」
「どう使うかは聞かぬが」
もっと言えばわかっていることだ、慶次にはそれだけの冴えがある。
「しかしそこに見たわ」
「傾きをですか」
「そうじゃ、わしは傾奇者じゃ」
天下ではこれで天下一と言われている、彼の叔父だった前田利家共々それで名を馳せてきただけはありだ。
「傾くなら何処までも付き合うぞ」
「拙者が傾奇者とは」
「わし以上の傾奇者やもな」
幸村にも言った。
「まさにな」
「幕府に従わぬからですか」
「そうじゃ、わしはもうここにおる」
幕府に逆らうことなくとういうのだ。
「そもそも天下人に傾いたことはない」
「元右府様にも太閤様にも」
「むしろ元右府様のところで好き放題しておった」
信長の時はというのだ。
「そして太閤様にもな」
「いえ、傾かれていたのでは」
「ははは、あれか」
「はい、太閤様とお会いした時に」
「まああれはな」
慶次は自身が諸大名が居並ぶ中で秀吉の御前に参上した時のことを笑って話した。
「太閤様とも馴染みじゃったしのう」
「そういえば」
「織田家におってお互い若い頃からな」
「ああ、でしたな」
「叔父御が特に親しくてなあ」
前田利家がというのだ、前田と秀吉の間柄はお互いに若く身分が低い頃から深く妻同士も実に仲がよかった。
「それでじゃ」
「だからですか」
「あの方ならばああされるとな」
「わかっていてですか」
「あえてやんちゃをしたのじゃ」
悪戯小僧そのものの笑みでだ、慶次は幸村にその時のことを話した。
「そして太閤様は実際に許して下された」
「慶次殿のご存知であるが故に」
「そうじゃ、お互いにな」
「そうでしたか」
「もっとも少しやんちゃが過ぎたらな」
その時はとだ、慶次は話した。
「叔父御に殴られておったわ」
「そうでしたか」
「まあ実際後で殴られた」
前田にというのだ。
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