瞬間
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いくにもかかわらず、エイジの表情にまったく恐怖の色はない。さらにその記憶を保管する《An incarnate of the Radius》がいない今、恐らくはあの記憶は悠那を維持した後は消えるだけで。そんな状況を理解したのか、髪の毛を振り乱して慌てだす悠那だったが、無慈悲にもエイジの記憶は彼女が一時的にも蘇る糧となっていく。
「だから……頼むよ、悠那。君のことを、君の夢を思い出せなくなる前に……」
『……エーくんの、バカ、バカ、バカ! ズルい。ズルいよ……』
「ごめん」
『っ……』
先までのどこか超然的な雰囲気が嘘のように、そのままエイジに向かって殴りかからんとするほどに怒る悠那だったが、拡張現実によって生じたアバターである彼女にそれは叶わず。すると観念したように俯いた後に、悠那は一瞬にしてライブステージの中央へと移動してみせると、しばしの深呼吸の後にステージへ歌声を響かせ始めた。
「綺麗な声……」
「うん……」
誰かがそう呟いた通りに。透き通るような声がライブステージに響き渡っていき、旧SAOボスと戦っていたプレイヤーたちが一瞬だけ足を止める。さらにまだ《吟唱》スキルの影響が残っているのか、それともARアイドルのユナの歌と同様の仕組みかは分からないが、俺たちを含むプレイヤーたちにバフがかかっていく。
「聞き惚れてる場合じゃないわね……あたしたちも、最後の仕上げといきましょ!」
「はい!」
そして俺たちも、キリトだけに任せる訳にはいかずに飛びだすと。思い思いの武器を持ちながら、残る旧SAOボスに戦いを挑んでいく。とはいえもはや負ける気はなく、悠那の歌うもの悲しい曲に乗せて振るわれる武器は、まるでゲームのエンディングそのもののようで。
――そうしているうちに、いつしか、もはやライブステージに旧SAOボスはいなくなっていた。無尽蔵に湧いていた気もするほどの物量だったが、キリトが振るう剣には復活を未然に防ぐ効果でもあったのか、それとも菊岡さん辺りがまだ残っていたであろう教授を抑えたのか。それは分からないが、とにかくプレイヤーは武器を解除し、ただただ悠那の歌を聞くのみだった。
『…………』
もはや自らの役目は終わったとばかりに、大剣を背負った《黒の剣士》も消えていき、観客席でゆっくりとキリトが目を覚ましていた。そして近くで耳をすます俺たちと合流しようと、こちらに歩いてくるキリトと入れ替わるように、俺は元々いた観客席へと――エイジが座る場所へと戻っていた。
「……いい歌だな」
「ああ……」
貴方に、笑顔を。ストレートにそう伝えてくる曲だが、現実はそうとはいかないと言うように、もの悲しい旋律の中に歌詞が紡がれていく……あなたが優しい言葉で助けてくれたから、寂
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