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有終の美
第三章

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「指揮も出来ません、そして指揮台でもです」
「やはり最後までですか」
「立たれてですか」
「指揮をされますか」
「そうします」
 絶対にというのだ、言葉は前よりも弱まっている。まさに死が刻一刻と迫っているのが明らかだった。だがそれでもだった。
 ウェーバーは一人で歩き指揮台まで向かった、オーケストラのボックスに姿を表すとオーケストラの者達からも観客からも拍手が来た。
 その拍手を受けつつだ、ウェーバーは指揮台に向かう。そうして。
 指揮をはじめる、音楽が劇場の中に響きはじめてだった。序曲から。
 幕が開き舞台がはじまった、その舞台は順調に進み音楽も止まらないが。
 ウェーバーの周りの者達はその音楽を聴きつつだ、不安を隠せなかった。それでボックスの指揮台にいる彼を見て不安な顔でいた。
「大丈夫か、マエストロ」
「今にも倒れそうだ」
「あの様なお身体で最後まで指揮が出来るか」
「あれだけやつれられて」
「今はしておられるが」
「最後まで出来るか」
「何かあれば」
 その時のことを考えて言うのだった。
「その時はすぐに行こう」
「そしてお助けしよう」
「舞台以上にだ」
「マエストロのことが心配だ」
「あと幾許もないというのに」 
 それこそというのだ。
「ふらつきでもされれば」
「その時は」
「すぐに行こう」
「立っておられるだけでも奇跡だ」
「そんな状況だからな、マエストロは」
「ましてや長い時間の指揮なぞ」
「無理だというのに」
 こうそれぞれ言ってウェーバーの指揮をはらはらしながら見ていた、無事に終わって欲しいと思う以上に倒れないで欲しいとだ。
 そうしている間に一幕が終わる。休憩室に入ったウェーバーに彼の周りの者達は気付け薬を渡しながら言う。
「あの、まだですね」
「第二幕第三幕もですね」
「振られるのですね」
「そうされるのですね」
「そのつもりです」
 息は弱い、顔色は開演前より悪くなっているがそれでもだった。
 ウェーバーは目の光だけは維持させてだ、彼等に言った。
「神にもお願いしています」
「最後まで、ですか」
「指揮をさせて欲しい」
「その様にですか」
「そうです」
 このことも話すのだった。
「ですから」
「そうですか、では」
「このままですね」
「終幕まで、ですね」
「振られるのですね」
「これが最後でもありますから」
 指揮をすることもというのだ。
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