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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十三話 第一特設艦隊
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官が口を開いた。
「ランテマリオ星系には八月二十五日までに着くことが必須条件となります。それまでの間、それぞれ航行中の艦隊を敵と認識し発見次第奇襲攻撃をかける訓練を行います。妨害電波を敵艦隊にかけた時点で奇襲は成功、奇襲を受けた艦隊はその場で二十四時間の待機……」
また会議室がざわめいた。ランテマリオまでの所要日数を三十日とすれば六日の余裕が有る。だが奇襲を受ければその時点で一日ロスする。相手は第一、第三の二個艦隊、それぞれが三回奇襲を成功させればそれだけで六日ロスだ。奇襲を避けようとすれば当然哨戒活動を厳重に行い慎重に進まなければなるまい。だがその事が兵に与える緊張、疲労はどれほどのものになるか……。皆同じことを考えたのだろう、顔面が強張っている。
「閣下、ランテマリオまでの航路はどのルートを」
チュン参謀長が司令官に問いかけた。バーラトからランテマリオに行くにはいくつかのルートが有る。大きく分けてもリオ・ヴェルデ方面とケリム方面に分かれるが一体どのルートを辿るのか……。
「航路は各艦隊で自由に設定して構いません。場合によっては一度も敵と遭遇することなくランテマリオに着く事も有り得るでしょうし、三艦隊が同じルートを選ぶことも有り得ます」
三度、会議室がざわめいた。皆が小声で話している。おそらくどのルートを選ぶのが良いのかを話しているのだろう。
「参謀長、皆と話し合って航路を選定してください。それと哨戒活動、索敵活動をどのように行うのかを決めてください」
「承知しました」
参謀長の答えに司令官が笑みを見せた。珍しい事だ、我々を励まそうとでもいうのだろうか。
「気を付けてくださいよ、第一艦隊は前回の戦いで良い所が有りませんでした。当然ですがその鬱憤を晴らそうとするはずです。そして第三艦隊のヤン中将は用兵家としての力量は私などより遥かに上です。非常勤参謀などと甘く見ていると痛い目を見ますよ」
励ましなどでは無かった、ドジを踏むなという警告だ。皆が表情を強張らせる中ヴァレンシュタイン司令官は席を立った。慌てて起立し司令官の退出を見送る。司令官の退出後、席に着くと彼方此方で溜息が聞こえた。
「八月二十五日までにランテマリオ星系に必着ですか、奇襲さえ受けなければ十分可能だとは思いますが」
「そうでもないぞ、ラップ少佐。考えたくない事だが、迷子になる艦が出るかもしれん。この艦隊が寄せ集めである事を忘れてはいかん」
副参謀長、ブレツェリ准将の言葉に皆がうんざりした表情を見せた。
「哨戒部隊が迷子になどなったりしたら……、考えたく有りませんな」
「迷子の捜索と奇襲への手配、大騒ぎだろう。司令官閣下がどう思うか……」
チュン参謀長とワーツ副司令官の遣り取りに何人かが溜息を吐く、私もその一人だ。
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