第一章
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羅刹女の成仏
一乗帝が出家され院となられていた時のことである。比叡山に源信という非常に学識のある僧侶がいた。この源信が都に用があり下山していた時のことだ。道を歩いていると急に雨が降ってきた。
「雨か」
源信はその雨を見上げて果たしてこの雨はどういった雨かと考えた。恵みの雨かそれとも何かのはじまりか終わりとなる雨かとだ。
雨といっても様々だ、時と場所によって降っても何かが違ってくる。それで彼は思ったのだ。その彼のところにだ。
後ろから何かが駆けてくる音がした、雨音はまだ弱くその音はよく聞こえた。それで源信も後ろを振り向くとだ。
着物を着た髪も顔立ちもいい女だった、女は源信の方に走って来た。そのまま通り過ぎるのかと源信は思ったが。
彼のところで立ち止まってだ、泣きながら言ってきたのだった。
「源信殿ですね」
「はい」
その通りだとだ、源信は女に答えた。それで女が蓑も笠も着けていないのでこう言ったのだった。
「拙僧の蓑をお渡ししましょうか、笠も」
「いえ、近くに大きな木がありますので」
「その下に入りですか」
「雨宿りをしましょう、それにです」
「拙僧にお話したいことがあるのですね」
「左様です」
その通りという返事であった。
「宜しいでしょうか」
「拙僧をご存知でだからこそ来られた様ですし」
女の様子からこのことを察して応えた。
「ですから」
「その木の下で、ですね」
「お話をしましょう」
「有り難うございます、それでは」
こうしてだった、源信は女に案内されその木の下に向かった。その木は道から少し離れた場所にあり極めて大きかった。雨宿りには最適の場所であった。
その木の下に二人で入ると女はすぐに源信に話した。二人で木の下に立ったままで。
「実は私は人ではありませぬ」
「と、いいますと」
「羅刹女なのです」
己のことをこう話すのだった。
「実は」
「鬼なのですか」
「そうなのです」
「そういえば」
源信は女の顔を見た、見れば見る程美しい。この世のものとは思えぬまでだ。源信は女のその美しい顔を見てわかった。
「羅刹女は大層美しいといいますが」
「そのことからおわかりですね」
「言われてみますと」
自身の学識から話していく。
「貴女はお奇麗だ」
「だからですか」
「この世とは思えぬまでに」
見れば見る程だ、女は奇麗な顔をしている。一見すると天女かと見間違うまでの整った美貌である。
しかしだ、源信は彼がこれまで学んだことから言うのだった。
「そしてその美しさは」
「羅刹女のというのですね」
「それの美しさ、美しいが」
しかしというのだ。
「何処か闇がありますな」
「はい、その闇こそです」
「鬼のものだ
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