一 暁の静けさ
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いるとは露知らず、仮面裏で険しい表情を浮かべていた男は、ふと気配が露わになった事に気づいて顔を上げた。
暗がりから、音も無く静かに現れた彼を目にして、わざと姿を見せてくれたのだと察す。だから男も敬意を表して、普段滅多に外さぬ仮面を外した。
露わになったその顔は年齢のわりに、人生を達観したかのような暗い表情だったが、それよりも彼の方がずっと、全てを見透かす眼をしていた。
鏡の如く澄み切っていながら、闇を濁り固めたような。それでいて、深い滄海の如き瞳の色が、男は気に入っていた。
自らも対象を吸い込む力を持っているが、それ以上に吸い込まれそうな青を見ていると、荒れていた心が落ち着く。同志だからだろう、と男は自身より背が低い相手の姿を眩しげに見つめた。
暫しの静寂の後、彼は何も言葉を発さず、くるりと背を向けた。再び闇に溶け込みかける小柄な背中へ、男は思わず手を伸ばす。拍子に落ちた仮面が、カツン、と音を立てて跳ねた。
闇に響いた音を聞き咎め、彼が「マダラ」と指摘する。その呼び名に、男は聊か機嫌を損ねた。
「お前だけは…その名で呼んでくれるな」
完全に立ち止まった彼が、男の代わりに仮面を拾い上げる。男の素顔を仰いで、ふっと和らいだ瞳の青が暗闇の中で妙に輝いていた。
二年ほど前よりは随分成長したものの、やはり変わらず、まるでその場に存在していないのかと見間違いそうになる。
そしてそれ以上に、今ようやく感じ取れた研ぎ澄まされた気配が、幻想的な彼の存在を確かに物語っていた。
差し出された仮面を受け取れば、彼はフードを目深に被って再度踵を返した。しかしながら肩越しに振り返ると、静かに男の本名を口ずさむ。
「わかっているよ……――――オビト」
音も、声も聞こえない、唇の動きすら読み取れないほどの些細な呼び名に、それでも男は満足して仮面をつけ直す。その時にはもう、男はマダラという名の男になっていた。
別れ際に彼が呼んでくれた自分の名が、まだ残響として耳に心地良く残っている。
己が何者かわからず、狂いそうになるのを唯一止めてくれているその名は、まるで地獄に垂れ下がる蜘蛛の糸のようだ。
闇の中で、消えた彼の髪の残像が、金色の軌跡を描いているように見える。その軌跡の金糸が、自分にとっての蜘蛛の糸だと仮面の男は思う。
こんな地獄のような世界で生きているからこそ、男はつい寸前まで目の前にいたはずの存在に感謝した。
やり切れない寂寥の海はいつだって凪いでいるが、寸前のほんの一時の対話だけで、心の荒波は平穏なものへ一変する。
彼―――うずまきナルトの存在こそが、己をうちはオビトだと証明してくれる同志だと、仮面の男は信じて疑わなかった。
とっくに消
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