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渦巻く滄海 紅き空 【下】
一 暁の静けさ
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君が生きて、あちら側に俺が立っていた。
そう考えたところで。



今は詮無き事。
















「……まだ起きとるのか?」

夜空をぼんやりと眺めていた彼女は、背後からかけられた師の声に振り向いた。

月光が、いつもは二つに結っている髪にキラキラと降り注ぐ。下ろされた長い黄金の髪が、まるで天の川のようだな、と自来也は柄にもなくそんな感想を抱いた。

「ちょっと、夢を見て…」

自来也の問いに、窓辺に腰掛けた波風ナルは曖昧に答える。
弟子の妙な受け答えに疑問を抱くこともなく、自来也は「遠足前のガキじゃないんだから、さっさと寝ろのぉ」と若干のからかいも乗せて促した。


「なんせ明日は、」
「わかってるってばよ」

子どもの頃と変わらない口調だが、姿形はすっかり大きくなった彼女が自来也の言葉を遮って唇を尖らせる。里を出る前の姿と比較して、(図体だけは一丁前になりよって)と自来也は内心苦笑した。

改めて就寝の挨拶を交わし、自分の寝床に戻った自来也を見送ったナルは、再び窓から天を仰いだ。
眼に痛いほど明るい月が、彼女の瞳の青に映り込む。



妙な夢を見た。夢の内容は憶えていないのだけれど、どこか懐かしい夢だった。

ずっと昔、遥か遠い過去。誰かが自分に寄り添ってくれていたような。
こうして眠る時、悲しくないように寂しくないように、自分の手を握ってくれていたような。
なんとなく、そんな陽だまりの中にいるかのような、ふわふわした夢だった。


明日は、懐かしい里に帰る日だ。
木ノ葉の里を出て、妙朴山で暫し過ごし、こうして各地を回る修行の旅に出て、久方ぶりの帰郷。

だから早く寝なければいけないのに、どうしてだか、その不思議な夢を見て、胸が騒いだ。
それで、泊っている宿の窓から月を見て、気持ちを落ち着かせていたところに、自来也が声をかけてきたのだ。


ただの夢だとはわかっている。しかしながら、ただ、という一言で片づけたくなかった。懐かしくてあたたかくて、でもどこか泣きたくなるような。

悲しくもないのに変だよな、と首を傾げたナルの視界の端で、道端に咲く小さな花が風に揺れていた。
忍び故に、眼が良い彼女の瞳は、暗い夜にもかかわらず、自分の部屋の真下で秘かに咲いている花をしっかと捉える。

雑草の部類だろうが、健気に生きている花を目にして、波風ナルは故郷で自分が育てている花の数々を思い出した。里を出て行く前に、幼馴染の山中いのに世話を頼んではいたが、枯れていないか不安だ。

まぁ花屋の娘である彼女は自分よりもきっと花への気配りは上手だろうけど、それでも植物を育てるのが好きなナルは僅かばかり心配した。

貰い物だから余計
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