巻ノ九十四 前田慶次その五
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「あの方は教えてくれる」
「そうしたことにこだわらぬ方ですな」
「それが前田殿じゃ」
「天下一の傾奇者であられるが故に」
「我等のことは前田殿にとっては小石程の大きさもない」
天下一の傾奇者、その定まりなぞ気にしない者にとってはというのだ。
「だからな」
「拙僧達であっても」
「よいと言われる、間違いなくな」
「では」
「今から行くぞ」
「はい、前田殿のところに」
「これよりな」
こう話してだ、そしてだった。
幸村と伊佐は二人である場所に向かった、そこは茶室だった。米沢の中にある小さな茶室であったが。
傍に異様なまでに大きな黒い馬がいる、鬣は火の様に赤い。伊佐はその馬を見て幸村に言った。
「あの馬は」
「わかるな」
「松風ですな」
「そうじゃ」
その馬だというのだ。
「これでわかるな」
「ですな、あの馬の持ち主といえば」
「前田殿じゃ」
朱槍と並ぶ慶次の代名詞となっているものだ。
「ではな」
「この茶室に」
「前田殿がおられる」
「ではこれより」
「茶室に入ろうぞ」
「わかり申した」
こうしてだった、二人は茶室に入った。すると。
そこにいたのは歳を感じさせない大柄で見事なまでに派手な服を着た大きな髷の男がいた。その男がだった。
二人を見てだ、笑顔で言った。
「遂に来られたか」
「お待ちでしたか」
「ははは、今か今かとな」
「左様でしたか」
「いや、待ちくたびれた」
慶次は馬鹿でかい煙管を吹かしつつにこやなに述べた。
「そして今じゃ」
「遂にですか」
「来てくれたのう」
「おわかりだったとは」
「米沢に来た時からな」
「おわかりでしたか」
「気配でな」
それによってというのだ。
「わかっておった」
「そうでしたか」
「これは殿もそうでな」
「直江殿もですな」
「しかし何も言わぬ」
景勝も兼続もというのだ。
「貴殿等はここにはおらぬ」
「そうだからこそ」
「そうじゃ、わしもじゃ」
慶次はにこやかにこうも言った。
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