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魔法少女リリカルなのは 〜最強のお人好しと黒き羽〜
第三十二話 それぞれのかたち
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がわかる。
これは、家族としての『行ってきます』だ。
……そうか。
俺がどれだけ距離を感じても、リンディさんは俺を息子と思っている。
いや、息子……家族と思おうとしてくれているんだ。
俺とリンディさんの距離はまだ遠い。
だけど、だからこそ歩み寄っていくしかないんだ。
家族になるには。
お互いを理解し合うには、歩み寄ることでしか近づくことはできない。
その一歩を、リンディさんは進んでくれた。
……なら俺は?
俺はこの人とどうありたいんだ?
リンディさんが求める家族のかたちに、俺は近づきたいのか?
――――私の家族にならない?
不意に思い出した言葉は五年前、俺が両親を亡くして葬儀をおこなったとき、一人ぼっちだった俺に、リンディさんが放った言葉だ。
俺はあの時、なんて思った?
――――嬉しかった。
孤独で、居場所がなくて、落ち着かなくて。
そんな俺に、リンディさんは手を差し伸べてくれたんだ。
優しくて、暖かい手を。
俺はもらってばかりだ。
仲間も、居場所も、優しさも、温もりも。
もらってばかりの俺は、何を返せるだろう?
俺ってばかりの俺は、何ができるだろう?
……俺は、
「行ってらっしゃい……母さん」
俺も、家族としての一歩を踏み出しても、いいんじゃないか?
「……ええ!」
ドアが閉まる瞬間に聞こえたのは、リンディさんの嬉しそうな返事だった。
後ろ姿で表情は見えなかったけど、上擦った声は俺の耳にはっきりと聞こえた。
初めて聞いた、リンディさんの声だった。
「……はぁ〜」
無音になった病室で、俺のため息だけが響き渡る。
さっきの一言に、ここ数年分の勇気を使い果たした気分だ。
身体だけでなく、心まで疲れたな。
そう思っていると、腹の虫が大声を上げた。
リンディさんの話しじゃ、十日近く寝てたらしいからな。
流石に点滴とさっきの水じゃ腹は満たせない。
「アマネ、現場の状況の映像……出せるか?」
空腹を紛らわせるために、現場を見るとしよう。
《ケイジ様に止められてるのですが……特別に許可します》
「……珍しいな」
普段は命令に絶対なアマネが『特別』なんて言葉を使うのは珍しい。
ケイジさんの命令が理不尽なものでない限り、そんな簡単に許可するとは思えないが?
《まぁ、反抗期のツンデレマスターが素直になってきたことを祝福して特別です》
「……」
淡々と、しかしどこか悪戯心感じる口調に、俺は全身の血が沸騰するような暑さに襲われる。
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