Y.明日へ吹く風に寄せて
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へと満ち足り -
最後の詠唱も止み、僕は舞を静かに終えた。
するとその殺那、身に付けていた六宝装が淡く輝き始めた。それと同時に、千年桜の下にあった春桜姫と藤原是滿の二人も同調するかのように強く輝き始めたのだった。
「これは一体…!?」
颯太達三人は、それを不思議そうに見詰めている。だが、僕はこの光景を以前に一度だけ見たことがあった。
それは…両親を見送った時だ。霊体となった父と母に大伯父が同じ儀式を施した時、二人の体がこんな風に輝いていたんだ…。僕を心配して現し世に縛られた父と母。それを憐れに思った大伯父。それでも僕は…。
「我が名に応じ、天よ、その扉を開き憐れなる者を迎え入れよ!」
僕は古い記憶を振り払うよう言い放つと、二人は光の中へと埋没し、そのまま一条の光となって天へと昇った。
- ありがとう… -
たった一言、そう聞こえた。それだけで充分だった。
「父さん、母さん…これで良かったんだよね…。」
ぽそりと呟いた僕の声は、一迅の風によって掻き消された。それでいい…。
「ああ…桜…桜が!」
「颯太…。何を素っ頓狂な声を出してるんだ?」
僕が苦笑しながら言うと、颯太は唖然とした顔をして千年桜を指差していた。
そこにはもう一枚の花弁もなく、ただ新緑の美しい若葉だけが残されていた。
「颯太?あんた今更何驚いてるのよ。あの桜って、あの姫様が咲かせていたのよ?それも幻影でね。そうですわよね?本家当主殿。」
春代さんが笑いながら言ってきた。そうとう体力が消耗してる筈なんだが…この人はパワフルだな。
「そうだよ。あれは、春桜姫の深層にあった強い想いが咲かせてたんだ。その力を失った今、本来の姿へと戻ったんだよ。」
「はぁ…。一枚くらい、写真に撮っとけば良かったなぁ…。」
颯太のあまりの落胆ぶりに、僕も春代さんも、そして本間さえも笑い出してしまったのだった。
「行方様。来年には再び美しい花を愛でることが出来ます。来年は皆様と共に、ここへ花見に訪れましょう。」
「絶対だかんな!」
「はいはい。」
本間に軽くあしらわれたような颯太に、またもや笑いが起こった。
颯太は多少不貞腐れていたが、最後にはみんな一緒になって笑ったのだった。
「旦那様。早くお戻りになりませんと、また彌生様が…。」
心配そうに本間が言った。
だが、今宵は良い月夜…。ここで直ぐに帰ると言うのも、何だか勿体無いような気がした。
「まぁ、良いじゃないか。明日へ吹く風に寄せ、今ひとときはこのままで…。」
終
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