Y.明日へ吹く風に寄せて
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かに、死してしまえばそれまでの世だ。先に亡くなった者に出会えるなど、砂漠に埋もれた一粒の宝石を探すに等しいことなのだ。しかし…二人は再開した。
- この鬼と成り果てた私を見て、未だそうお想いですか?私はあらゆる怨みを吸い上げて、あの時のような美しさは御座いませぬ…。それでも… -
- 何も申すな。貴女は貴女であり、我が唯一愛した者。どの様な姿であろうと、我の心は変わりはせぬ。 -
- 是滿様…。もう決して御側を離れとう御座いませぬ…!ずっと…逢いとうございました…! -
春桜姫はそう言うと、是滿の懐へと抱きついた。すると、姫の体から邪気が浄化されて行き、そこには生前と同じ美しい姿が現れたのだった。
「これが…本当の姿…。」
あまりの美しさに、颯太は驚いたようだ。
まぁ…仕方ないだろう。鬼の様相を呈する前も、邪気を浴びて怨霊となっていたのだからな。
「本間、春代さん…。まだ動けるか?」
「はい、旦那様。」
「はい、当主殿。」
二人の返答を聞き、次いで未だ呆けている颯太にも声を掛けた。
「颯太、君も大丈夫かな?」
「…ん?あ…ああ、平気だ。何をしようってんだ?」
その颯太の返答を聞き、僕は千年桜の下で抱き合う是滿と春桜姫を見詰めながら言った。
「天昇祭舞を行う。」
これは“招魂祭舞"と対になる舞で、世に留まっている魂を天へと送る舞だ。舞手一人に楽士三人という編成になるが、ここにはそれが揃っている。
だが実際には、この“天昇祭舞"は禁止されている舞だが、誰もそのことを口にはしなかった。
特に、自殺者は天へと昇ることが許されないとされており、試されることすら無かった舞だ。
どうなるかは分からないが、やはり…この抱き合う二人には幸せになってほしいと思うのだ。
「さぁ、始めよう…!」
そう僕が言うと、颯太は笛、春代さんは琵琶で、残る本間は鼓を奏し始めたのだった。
- 現し世に 残せし櫻 散り降れば 流る風とて 天へ還らじ -
さぁ…この哀れなる世に未練なぞ残す必要はない。この世界は淋しいだけの…ただ…ただ…在るだけの虚しい蜃気楼なのだから…。
- 艶やかに 映す水面に 紅葉舞い 往く河もまた 空へ昇りし -
形あるものはいつか消え去る。だが、想いと云うものは必ず残るのだ。そう…想いだけは人の死も時代も越え、永久へと広がってゆくものなのだ…。
- 哀しみを 包みし如く 降りにける 舞う白雪も いずれ溶け去り -
いや…消え去るのではない。あぁ、消え去るのではないんだ…。再び結ばれ、そして共に同じ時を流れゆくのだ。もう、苦しみも哀しみも…そして淋しい憎悪も無いんだ…。
- 明日へ吹く 風に寄せるや 向日葵の 輝けし日の 天
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