Y.明日へ吹く風に寄せて
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
ン…。
再び鈴の音が響いた。すると、僕を含めて皆は思わず目を見開いたのだった。音の出所が分かったのだ。
「玄武の…鈴が…。」
“玄武の鈴"は、正式には鈴ではない。楽器として作られたのではないようで、音を出すことは出来ない。その玄武の鈴が今、あり得ないことに音を出したのだ。
「一体どうなってる…!?」
未だかつて、このような話は聞いたことがない。古文書の記録を遡っても、この“玄武の鈴"が響いた記述は一切無いのだ。
「こいつが…鳴ったのか…?」
今まで声を失っていた颯太が、恐る恐る声を出した時だった。突如、男性の声が辺りに響いた。
-あぁ、我が愛しき姫を滅せぬよう懇願致す!-
男性の声がそう言ったかと思うと、僕達の前に声の主が姿を現した。それを皆、一目で何者であるかを悟った。
「右大臣の息子か…!」
-我は藤原是滿と申す。永きに渡り我は、その玄武の鈴に封じ込められ、愛しき姫に逢うことすら儘ならなんだ。しかし、其方らの解呪と召還により、その呪縛より放たれることが出来たのだ。礼を申す。-
藤原是滿と名乗った男性の魂は、とても慈愛に満ちた表情をしていた。長年封じられていたとは思えない程に、その姿より感じる気は清らかだったのだ。
姿を現した是滿は、すっと千年桜へと向きを返るや、そこへいた春桜姫の元へと向かった。僕達はただ、それを唖然と見ている他は無かった。
- 今更何をしに来たのでしょうや?私は貴方様の使いに首を刎ねられ、この桜の下へと棄てられるかの如く埋められたのですよ?その上家族すら、貴方様の名を伏せんがために焼き討ちされ…私はこうして鬼となったと言うに…! -
- 済まぬ。だが我は貴女を想い続け、父上の命にも背き貴女を救おうと試みた。しかし力及ばず、我は無念の内に自害したのだ。父上に貴女への想いを貫くことを書き残して…。 -
- なれば、何故に今まで逢うては下さらなかったのです?さすれば…私は、このようなことをせずとも良かったのですぞ! -
- それは…怒り狂った父上の命にて、我の魂が玄武の鈴へと封じられからに他ならない。我はあの鈴の中での永き月日、貴女を想い続けていた。身分なぞ関係ないと言った、あの時の貴女の姿。あの美しき姿を再び見ることを夢見、ずっと耐え忍んでおったのだ…。 -
- …今も…私を愛しておられると…? -
- 無論。天地神明にかけ、我は貴女を愛している。姫、この世では叶わなんだが、これから先、世が枯れ落つるまで…我と共にあってはくれぬか…? -
これは…まるで時代を越えたプロポーズと言えた。恐らく、是滿はこれを言うためだけに自害したのかも知れない。
それを馬鹿らしいと思う者もいるだろう。だが…是滿のこれは、死をも恐れない純粋な愛だ。
確
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ