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明日へ吹く風に寄せて
X.決戦
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密告したためであったのだ。その貴族はこともあろうに、右大臣にこう告げたのだ。
「右大臣様の息子君は、どうも天皇家を乗っ取ろうとしている新参貴族の娘子と、夜な夜な逢っておると聞いておりますぞ?誠に不届きにございますな。息子君も、よもや帝を…。」
 そのようなことは一切無かったのだが、右大臣はこれを鵜呑みにしてしまったのだ。それ故、右大臣はこのような酷い命を息子へと与えたのだった。
 しかし、息子はそれを断り、父である右大臣へと反発したため、右大臣は家臣に姫を桜の下へと呼び出させ、何も知らずに桜の下へと来た姫の首を、何も言わずに刎ねたと言われている…。

-私は…何故に…何故に…何故に!-

「だめだ!このままでは結界がもたない!」
 僕がそう叫んだ刹那、結界の媒体である榊が、一瞬のうちに燃え尽きてしまったのだった。

-ああ!なんと憎らしや!この恨み、晴らさでおくべきか!-

 今までよりも怨みの増した形相となり、それは般若と言うよりは鬼と表現した方が良いだろう。こうなると、悠長に舞など舞っている余裕などない。
「時を統べる星々よ、大地の命に仇なす者を打て!」
 僕が言霊を発する前に、春代さんが先手を打った。これは霊の力を弱める効力を持つが、対してこちらの力をかなり消耗する言霊でもある。
「春代さん、あまり無理をしないで下さい!」
「これくらいしないと…あのお姫様…は、大人しくしてくれない…じゃないのよ…!」
 まぁ…そうなんだがな…。しかし、この後の春代さんの言葉に僕達は、これ以上に驚かされてしまったのだった。
「さっさと…右大臣の息子を…呼び出しなさいってば!」
 春代さんが言いたいのは、とある儀式のことだ。
 解呪師に伝わるものに「招魂祭舞」と言う儀式がある。二人の舞手と一人の楽士が必要となるが、春代さんは今暫くは無理だろう…。それを察してか、春代さんは停めてある車目掛けて怒鳴った。
「けいちゃん!いつまで…ボケッと見てる…つもりなのよ!」
 それを聞いて、僕と颯太は「あっ!」と声を上げたのだった。運転手の本間なら、この儀式も知っているはずだ。彼は楽器は出来ないが、舞は僕の父から仕込まれている。呪符遣いでもあり、剣道は三段の腕前だ。いわば運転手兼ボディガードでもあるのだ。
 春代さんに言われて、本間は直ぐ様僕達の元へと駆け付けた。その顔には「やれやれ」と言った風な表情を浮かべていたが、直ぐに緊張を帯びた表情へと変わった。
「皆様、春桜姫は未だ力が強いようです。花岡家当主の言霊の力で今は黙しておりますが、手早く儀式を完成させねば危険です。」
「分かっている。六宝装とまではゆかないが、お前はこの“太閤の扇”を使え。」
 僕は本間に、一つの扇を渡した。それは“朱雀の扇”とは違い、かなり質素な感じのするものだが
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