終章
灯火の消ゆる前に
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された。それは真実を語る者としての役割を与えられたためじゃ。わしはのぅ、ミルゲ君。書き記す者を見付けぬ限り、死ぬことを許されなんだ。わしの罪故にな…。」
「先生の…罪…?」
僕は囁くようにそう問うと、その御方は僕を見据えて言った。
「当時のわしはな、民など愛しておらなんだ。民が飢えようが病で苦しもうが、全くの無関心であったのじゃ。わしはただ表面だけを磨き、内側を磨くことを怠っておったのじゃよ。ヘルベルトはのぅ、その様なわしを知っとったんじゃ。故に、わしを神殿の階段より突き落として…殺したんじゃよ…。その時、わしはこともあろうに神を呪った。そうしてその罪故に、死して安らぐことさえ許されなくなってしもうたんじゃ…。」
その御方はそう言って、深い溜め息を洩らしたのだった。
僕は何と答えて良いか分からず、ただただ黙しているしか出来なかった。僕の様な些末な者に、答えられよう筈もなかったのだ。
しかし、その御方は暫くすると、再び僕へと言葉を紡ぎ始めた。
「ミルゲ君…。信ずる信ぜぬは、君自身が決めれば良い。だがのぅ、これだけは言える。わしはやっと、この長きに渡る苦痛より解放されるのじゃ。それは君のお陰じゃよ…。」
「先生…?」
僕は何かを聞き漏らしているような気がした。
この御方は…先程何と言っていた?これでは、まるで…死に逝く者の告解ではないか…。
何故に…今、僕の様な者に言うのだろうか?
「先生、僕はまだ聞かなくてはならないことが沢山あるのです。この書物には、まだ訳註が付されてないのですから。」
僕がそう慌てて言うと、その御方は弱々しい笑みを溢して言った。
「君の問いは、既に君の内に答えがある…。わしの灯火は、もう少しで尽きてしまうでな…。だが…これで良かったんじゃ…。」
「先生!僕はまだまだ先生の物語を聞きたいのです!」
僕はこの御方の細く皺だらけの手を強く握った。そうしなくては、天がその御方を召してしまう気がしたからだ…。
だが…。
「済まんのぅ…。」
その御方は僕の手を弱々しく握り返し、もう届くか届かぬか分からぬほど小さく囁くような声で言った。
「忘るるなかれ…神は汝と…共にある…。あぁ…君に出会えたことを…神に感謝する…。ミルゲ君…君に…幸福が…あるように…。愛する者が…共に…ある…ように…。」
「先生…?先生!?」
その御方は、静かに目を瞑り…それからもう目を開くことはなかった。
その顔は喜びで満たされ、自分でもどうしてそう思ったかは分からないが、その御方は「神の花園」へ逝ったのだと…そう感じた。
この巻末を僕一人で書くには、まだ修行が足りないことは重々承知していた。しかし、書いておかなくてはならないと考え、余白にこれを記することにした。
僕は、あの御方のことを告げねばならな
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