花園の章
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心安らけくありますように。」
明日の昼前にはシュアへと入れるこの状況で、ミヒャエルはワッツとレヴィン夫妻が赴いてくれたことに、内心では安堵を覚えていた。強張った精神はそのままではあったが、もう何も案じてはいなかった。そう…アリシアですらきっと何事もなく、無事にあの笑顔で戻ってくると確信出来たのであった。
空は藍で染まって行き、その向こうには輝く星々が歌うように瞬いている。今そこへレヴィン夫妻の奏でる音楽が響き渡り、ミヒャエルだけでなく、兵もそうでない者らも皆、その疲れを忘れて聴き入っていたのであった。飽くまで緊迫した雰囲気はそのままではあったが、夫妻の奏でる音はそこから不安や痛みを取り払うように、聴く者の心へと染み込んでいったのであった。
暫くして後、夫妻の演奏が止んだ刹那に天へ一筋の光が流れた。
「なんと…!これは善き兆しだ!」
その流れ星を見た一人の老兵がそう呟いた。この国では遥か古より、流れ星は幸運を齎すものとされており、その考えはこの当時にも残っていた。
「流れ星か…。」
ミヒャエルもそう小さく呟き、満天の星空を仰ぎ見た。少し離れたところでは、レヴィン夫妻が再び演奏を始めて、人々の耳を楽しませていた。その近くにはワッツも居り、夫妻の音楽を心から楽しんでいたのであった。
皆はその一時だけ全ての憤りを忘れ、ただ流れ行く響きへとその身を委ねていたのであった。ミヒャエルはその光景を見て心が温かくなり、この国の未来がこの様になればと願った。
そんな彼の傍らには一鉢の白薔薇が置いてあり、そこから芳しい香りが漂ってミヒャエルの鼻を擽っていたのであった。
さて、翌朝陽が昇ると皆は直ぐに野営を解いて、シュアに向けての歩みを再開したのであった。レヴィン夫妻も無論、ワッツの馭する馬車で一行に加わっていた。
当初は人々の荷物を馬車へ詰めて一緒に歩くつもりであったが、人々がそれを許さなかった。人々にとって、レヴィン夫妻は有名な楽士であり、また聖人レヴィン兄弟の血縁にあたる由緒ある者なのである。いくらレヴィン夫妻がそうとは思わなくとも、人々にとっては高貴な人物であり、自分達と共に歩ませるなど断じて出来なかったのであった。
「いやはや…。何とも年寄り扱いされているようでかなわんのぅ…。」
「あなた、その様なことを仰ってはいけませんわ。あの方々にはあの方々の想いがあって、私達には私達の想いがありますもの。ここは甘えておきましょう。」
「そうだな…。長年歩き通しだったからのぅ…。」
語らう夫妻の横には、枯れること知らぬ白き薔薇が香っていた。それを見て、ヨゼフは多くの事柄を思い出しながら呟いた。
「早くこの白薔薇を王城の花園へ植えたいものだ。」
その呟きに、エディアはただ笑みを持って答えた。ワッツは馭者台でその会話を聞き、心の
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