花園の章
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ドレアス!貴様ここで何をしておるのだ!この様な下賤の巣窟で、下らん遊びをしている時ではないであろうが!全く嘆かわしい…。さぁ、早々に帰るのだ。男一人の居場所すら突き止められんとは、なんとも呆れた男だ。」
あまりのことに人々は呆気に取られてしまい、どうしてよいものかと黙ったまま動かなかった。
「父上様、ここは民の憩いの場です。いかな大公である父上様でも、その様な暴言は許されようはずは御座いません。」
「何を生意気な!おい、そこの兵士。この恩知らず捕らえて牢に放り込め!あの楽士共も息子を唆した罪で捕らえ、牢に入れてしまえ!直ぐにだ!」
人々はこの言葉に恐れおののいてしまったのであった。まさか王都へいるはずのシュテルツ大公が、この様なところへ来るとは誰しも思いもつかぬことであった。
だが、そのふてぶてしい態度は、そこへ集まった人々を不快にさせるには充分であり、貴族にあるまじき下劣な行為であったとも言えた。故に、反抗した息子と、ただ演奏していただけのレヴィン夫妻とを牢へ入れよとの命令は民衆の心へ強烈な憤りを起こさせ、そして大公へとその怒りをぶつけようと立ち上がらせるに至ったのであった。兵が大公の命令を忠実に遂行しようとしていたからである。
このままではレヴィン夫妻すら罪人として牢に入れられてしまうかと思うと、ネヴィルだけでなく、集まった全ての者達はその憤りを隠すことなど出来ようはずもなかった。だがそれを止めるかのごとく、レヴィン夫妻はある曲を奏で始めたのであった。
「この曲は…。」
それはジョージ・レヴィンが弟ケインの死を悼んで書いたモテットからの編曲であり、現在でも葬送の音楽として奏され続けているものであった。その響きに人々の心は落ち着きを取り戻したが、大公だけは逆に、その怒りを最大限にまで上らせていた。シュテルツ大公は、要は音楽嫌いなのである。
「止めぬか!この愚か者共っ!」
そう怒鳴るや、大公は近くに控えていた兵士の剣を抜き取り、チェンバロを奏するヨゼフへと投げ付けたのであった。
「父上っ!」
アンドレアスは父を止めようとしたが、両脇から兵士に捕まれていたため、それを見ている他無かった。
しかし、その剣はヨゼフへは届くことはなく、彼の手前で真っ二つに折れてしまったのであった。
「な…!?」
その光景を目の当たりにした大公は、一体何が起きたのか理解に苦しんだ。いや、それは大公だけではなく、アンドレアスも、そこへ集まった全ての人々にも理解は出来なかったのである。
ヨゼフとエディアは演奏に集中しており、周囲のことは気付いていなかった。二人は何事も無かった様に演奏をし続け、それが終わると静かに周囲を見回した。
すると夫妻の目の前に、不意に二人の青年が姿を現したのであった。その時になって漸く、夫妻は不可思議なことが
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