花園の章
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未だ学生だったので、さして収入があったわけでもなく、末席でやっと演奏を聴けたのですから。」
ネヴィルはそう話すと、夫妻へと自嘲気味に微笑んだのであった。
その後、ネヴィルは思い付いたように夫妻へとこう提案したのである。
「そうだ。もし宜しければ、私の家へお越し下さい。オーナーよりご夫妻を丁重にお迎えするように申し使っておりますので、手狭だとは思いますが、是非とも私の家へお泊まりになって頂きたい。」
「いやぁ…。ご厚意には感謝しますが、そうご迷惑になるようなことは…。」
ネヴィルの提案に、夫妻は少々戸惑ってしまった。いかな親友の部下とは言え、全く面識を持たない彼の家へずかずかと上がり込むなど、ヨゼフもエディアも気が引けて出来ることではなかった。
しかし、ネヴィルは夫妻へととある案を付け足し、夫妻を気兼ねなく招くことが出来たのであった。
「それでは、我が家の庭にて小さな演奏会を催して頂けますか?そこへは街の人達も自由に出入り出来るようにし、ご夫妻の演奏を多くの人達に知って頂けたら、こんなに幸せなことはありませんので。」
夫妻はこの提案を聞き、心が温かくなるのを感じた。自分達の奏でてきた音楽は、決して金品のためだけにあったのではないと思えたからである。それは楽士として大変名誉なことであり、どんな高価な物や金銀にも代えることの出来ぬ心の宝石であった。
「では、お言葉に甘えさせて頂きましょうか。貴方の家へ招かれている間、私共はいつでも演奏をさせて頂きます。それが人々の心を潤すのであれば、これ以上の幸は無いのですから。」
「喜んでお迎え致します!」
ヨゼフの返答を聞き、ネヴィルは花の咲うような笑みを溢し、歓迎の言葉を述べたのであった。
こうして後、夫妻はネヴィルの用意した馬車に乗り、直ぐ様彼の家へと向かったのであった。
ネヴィルの家は、子爵でも住めるような立派なものであった。ネヴィルは先に「手狭」と言っていたのであるが、とても狭いと思えるような家ではない。家どころか、むしろ<館>と表現した方が良いだろう。
だが、これだけ大きいのには理由があり、それは直ぐに夫妻も知ることが出来たのであった。それは、ここへは何人もの下宿人を住まわせるための部屋があると言うもので、今で言うところのアパートである。
尤もネヴィル場合、貧しくて家を追い立てられた人々に部屋を貸し与えていたため、大した金額を貰っているわけではなく、ほぼ家族同然に住まわせているに過ぎなかったのであった。
道より見える庭は広く、そこには種々の花々が咲き乱れていた。その中でも薔薇は種類が多く、その芳しい香りが辺りを満たし、ヨゼフもエディアもその美しい光景に暫し目を奪われていた。
その中に一人、手入れをしている女性に気が付くや、ネヴィルが直ぐ様声を掛けたのであっ
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