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SNOW ROSE
花園の章
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男の反応を見て、夫妻は少し胸を撫で下ろした。どうやら、この宿はジーグの店の一つらしいということが分かったからである。そうなれば、ジーグが今どこへ居るか分かると言うものである。
「はい。私はヨゼフ・レヴィンと申しまして、ジーグとは旧くからの友人です。このアケシュの街にて落ち合う約束をしていたのですが、宿の名を聞くのを忘れておりまして…。」
「そうでしたか。しかし、誠に申し訳ないのですが、オーナーは今、先に話しましたシュテルツ大公殿下のご子息様にお会いになっておいでです。いつ戻るかは全く分からぬもので…。」
「大公殿下のご子息が参られておるのですか!?」
「ええ…。この先にある街長の館にお泊まりになっております。今はそのご子息様が、この街の一切を取り仕切っているのです。」
 この話を聞き、夫妻はどうしたものかと困り果ててしまった。まさかシュテルツ大公が子息を任に着かせているとは、全く想像だにしていなかったのである。
 ここで下手に動けば、自分達が怪しまれることは考えるまでもないが、親友ジーグは敵の手の中。その上、この街には体を休める宿すらない有り様では、引き返して街の外で野宿した方が賢明とも言えよう。
 暫く夫妻はどうしようかと考え込んでいたが、そこへ新たにもう一人の人物が姿を現し、夫妻の所へと歩み寄って来たのであった。
「そこのお二方。もしや…楽士のレヴィン夫妻ではございませんか?」
 いきなり声を掛けられ、ヨゼフとエディアは目を丸くしてしまった。そこへ立つ人物に、二人は全く面識が無かったからである。
「これは失礼致しました。私はこの宿の管理を任されておりますネヴィル・リチャードと申します。」
「これはご丁寧に…。私共は貴方様の申されました通り、楽士のレヴィンに御座います。しかし、何故私共のことを?」
 この尤もな質問に、ネヴィルは直ぐ様答えてくれたのであった。
「オーナーより、お二方がお越しになることを伺っておりましたので。私はそれ以前に、このアケシュでのお二方の演奏会を拝聴させて頂いたことも御座いましたので、直ぐに分かったのです。」
「そうでしたか。」
 ネヴィルの言葉に、ヨゼフは昔のことを思い出した。
 アケシュの街は、王都に近い準都市としての役割も担っている。ラタンも同様であるが、本道から離れた脇街道線上、当時はカルツィネ街道と呼ばれた四番目に広い街道の上にある街のため、馬車の通行量の多い本道より、旅人や行商人はこちらの道を好んで使っていたのであった。
 それ故、レヴィン夫妻も大半はこちらの道を通り、アケシュへも何度か立ち寄って演奏会を開いたことがあったのだが、聴き手の顔を全て覚えておくことなど不可能と言うものであろう。ヨゼフは思いだそうと試みたが、結局は失敗に終わってしまったのである。
「昔の話ですよ。私はその時、
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