暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
花園の章
X
[1/14]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

 レクツィの町より発ってから二日の後、レヴィン夫妻はアケシュの街へと入った。
 二人は先ず親友であるジーグの宿を探して街の中を歩いたが、そこは以前訪れたことのある街とは到底思えなかった。以前は活気に溢れた人の多い街であったが、今は大半の店が扉を閉ざし、数人の兵士が歩いている他は疎らに住人が通る程である。
「こりゃ…一体どうしたと言うんじゃ…。」
 ヨゼフはその光景を目の当たりにし、そう言って顔を顰めた。
「そうですわねぇ…。以前は活気に満ちた良い街でしたのに…。」
 エディアもこの有り様を見詰め、溜め息混じりにヨゼフへと言ったのであった。
 このアケシュの街は夫妻が到着する前に、シュテルツ大公が送り込んだ軍によって領地化されていたのである。
 元々この街はバッサナーレ伯が治めている土地の一つである。しかし、そのバッサナーレ伯がシュテルツ大公によって城へ無理やり更迭され、その自治権を剥奪されてしまったのである。
 無論、国法を無視した行いであるが、今のヘルベルトとシュテルツ大公にはその様なものは通用しない。故に、このアケシュの街はシュテルツ大公の手の内にあると言えるのである。
 そうなると…レヴィン夫妻は敵の真っ只中に飛び込んでしまったことになるのだが、夫妻が第三王子と面識があることを知る者は、この街にはいなかった。唯一、親友のジーグは知っているが、彼が話すことはまず有り得ないことなのである。
 さて、夫妻は暫く街を歩いて行くと、中心部付近に宿の看板を見付けることが出来た。夫妻は直ぐにそこへと入り、宿の者と思われる男へと声を掛けた。
「すみません。ここのお方ですかな?」
「いらっしゃいませ。私はこの宿の従業員ですが、生憎お泊まりは満室で全てお断り致しておりまして…。」
「満室…?」
 この男の話に、夫妻は首を傾げた。外に人影は疎らであるにも関わらず、宿の部屋は満室だと言うのだ。訝しく思ったヨゼフは、済まなさそうにしている男に向かって尋ねてみた。
「この宿は、かなり大きなものと思いますが…。街中の店も大半が閉まっておりますし、何故満室に?」
 そう尋ねられた男は辺りを見回し、夫妻へと顔を近付けて囁くように答えた。
「実はですね、大公殿下直属の兵士達が貸し切りにしてしまったんですよ…。」
「大公殿下の…!?」
「しっ!声が大きいですよ!それで旅のお方には申し訳ないのですが、他の宿をあたって下さい。まぁ、他も同じだと思いますがね…。」
 この話を聞き、夫妻は顔を見合せて後、仕方無いと言った風にその男へと言ったのであった。
「それでは他へ参ることに致します。しかし、もう一つお聞きしたい。この街にジーグ・フラーツという者が来ているはずなんですが、お聞き覚えはありませんかねぇ?」
「オーナーとお知り合いなんですか!?」
 
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ