ターン74 鉄砲水と冥界の札師
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だよ」
それだけ言って、腕のデュエルディスクを広げるミスターT。表情がピクリとも動かない上に黒いサングラスをかけているためその顔からは何も読み取れなかったが、とにかく言葉で解決する気がまるでないことだけはよーくわかった。
『油断するな、マスター。この気配、闇のデュエルだ』
「……うん、わかってる」
そうだ、この空気が張り詰めているような、それでいて重苦しいような不思議な感覚。覇王の異世界から帰ってこれた時は今度こそこの手の危険からは足を洗ったと思ったのに、まさかこんなに早くこの感覚を再び味わうことになろうとは。
正直、怖い。でも、恐ろしいのは闇のデュエルそのものじゃない。負けたら死ぬ。そのことはよくわかってるはずなのに、僕はこの状況を本心では歓迎している。またこの緊張感の中に身を置く感覚を、心の底では楽しんでいる。そんな僕自身が、僕は一番怖い。いつから僕は、こんなふうになってしまったんだろう。命を賭けるデュエルなんて間違っている……そう言い切ることが、今の僕にはできそうにない。
「準備は整ったかね?では、始めよう」
僕には、そのことを悩む暇は与えられなかった。とりあえず今を生き延びるためにその疑問を、そして人としての葛藤を脇に追いやり、目の前の敵を消し去るために戦って。それが終わったらまた次の相手が現れ、またとりあえずその場を切り抜けるために戦って。そんなことを繰り返しているうちに、今では疑問に思う心さえ風化して消えてしまっていた。それは、いいことだったのだろうか。戦士としては、それでいいのかもしれない。ダークシグナーとして考えれば、それはむしろ望ましい進化のはずだ。だけどつい3年ほど前までは確かに生きていた人間、遊野清明という個人としてみれば、果たしてそれは手放しに喜べる変化なのだろうか。
『マスター?』
黙りこくったままの僕の様子に何かを感じたのか、チャクチャルさんがかすかに心配そうな声で呼びかける。
そうだ、元をただせばこの神様が僕の人生に入り込んだ時から、全てが変わったんだ。あの場で終わったはずの僕の人生は地縛神の力で再び動き出し、その時から少しずつ僕の体は、そして精神はその影響を受けて変化していった……。
「なんて、ね。無駄さ、ミスターT」
「ほう?」
そこまでだ。その意思を込めて口の端だけでかすかに笑い、目の前のグラサン男のその目の奥を真っ直ぐ見返してやる。表情こそ全く変わらないものの、わずかに不快そうな色がその顔に走ったのが見えた気がした。
「確かに、僕はもう3年前の遊野清明じゃない。良くも悪くも、ね。だけど、もういい加減にあの覇王の世界で腹を決めたのさ。もう純粋に人間だった頃は戻らない、それだってかまわない。この3年間の思い出に、僕は自身を持って言い切ることがで
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