ターン74 鉄砲水と冥界の札師
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嵐のように現れて、その日のうちに去っていったノース校の鎧田たちの来襲からさらに数週間経った、ある晴れた午後。店番しながら売り物の紅茶を自分で淹れて柄でもなく優雅なティータイムと洒落込んでいた時、その知らせはやって来た。
「先輩、いますか?あ、またそれ飲んでたんですか……」
「そうは言うけど葵ちゃん、作ったのは僕とはいえこんだけ甘い香りのお菓子に囲まれてさ、なんで水道水で我慢しなきゃいけないのさ。それに大丈夫大丈夫、これお客さんに出した後の出涸らしだし」
「まだ新品の茶葉使われた方がマシです」
「えー……」
このやりとりは、もう何度も何度も僕らの間で議論されてきたものだ。互いに相手の頑固さから説得が不可能なことはよくわかっているため、今ではすっかり形骸化してちょっとした挨拶がわりでしかない。そんなことより、と気を取り直した葵ちゃんが、用心深さと好奇心が半々に入り混じった目で廊下の方をちらっと見る。
「先輩、知ってますか?今、またちょっと面白そうなことになってますよ」
「へーい万丈目ー。何やってんの?」
なぜかカードの詰まった段ボール箱を抱えて廊下を歩く見慣れた黒い後ろ姿に声をかけると、見た目より重いのか振り返りすらせずに返事が返ってくる。
「む、清明か。なんでも、カードをデュエルディスクがうまく読み込まない不具合が見つかったらしくてな。この名探偵万丈目サンダーの名に賭けて、不良品のカードを探し出してやろうと、まあそういう訳だ」
「不良品、ねえ。ちょっと見せて?」
段ボールの中のカードを1枚適当に拾い上げ、サクッと展開したデュエルディスクの上に置いてみる。だが、それまでだ。三沢謹製の水妖式デュエルディスクはうんともすんとも言わず、ソリッドビジョンは浮かび上がらない。確かにこれは、不具合としか言いようがないだろう。
「なるほどね……あれ?」
納得してカードをダンボールに戻したとき、その中に全体的に、なにか黒い靄のようなものがかかって見えた気がした。もっとよく見ようと目を細めたけれど、気のせいだったのかたまたま影がかかっただけだったのか、それきり何もおかしなものが見えることはなかった。
「どうしたんですか?」
その様子を見咎めたのか、万丈目の隣を歩いていた見覚えのない生徒が不審そうに聞いてくる。あまり心配させるのもなんなのでたぶん気のせいだろうと結論付け、安心させるように手をひらひらと振ってみせた。
「ああいや、気のせいかな……?えっと……」
「いやだなあ、忘れたんですか?藤原ですよ、藤原優介」
ほんの一瞬だけ思考に影がかかったような感覚がしたが、それもほんのわずかな間だけだった。ああそうだ、『思い出した』。特に話した覚えはないけれど、確かにれっきと
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