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SNOW ROSE
花園の章
V
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驚きのあまり声を荒げてしまったのであった。
「これを誰に渡されたのだ!」
「は、はい。フォルスタの宿の主人、ハインツ・ケリッヒ氏より託されたものに御座います。」
「まさか…ハインツが伝説の聖騎士、あのマルスの末裔だったとは…。」
 そのミヒャエルの言葉に、ユディもレヴィン夫妻も目を丸くしたのであった。
 ミヒャエルの手にある古びた剣には、ミヒャエルにしか解らないある紋章が刻まれていたのである。そこへ刻まれていた紋章は、現王家の祖にあたる旧王家の紋章が刻まれていたのであった。
「ミック…。マルスは現王家の内部抗争を終結させる際、聖エフィーリアの加護を受けて奇跡を起こしたと伝えられているが…。その剣、聖騎士マルスのものに間違いないのか?」
「間違いない。旧王家の紋章はマルスの剣以外、もう王城にある玉座に刻まれているものだけだ。十二貴族ですら、当主にのみ知ることを許されいる神聖な紋章であり、現王家の祖である別大陸の王家から伝えられたものなのだからな…。」
「それじゃ…これが奇跡の剣なのか…。」
 ユディの言葉を受け、皆はミヒャエルの持つ剣へと視線を向けた。託されていたレヴィン夫妻さえ、その剣を包んでいた布を外したことはない。故に、どのような剣かは、全く知らなかったのであった。まさかこの様な伝説の剣が現れようとは、露程も考えてはいなかったのである。
「ミヒャエル王子…私は…」
 あまりのことにヨゼフが口を開きかけた時、部屋の戸口で何かが落ちた音がした。皆は直ぐ様そちらへと視線を移すと、そこには薬草を採りに出ていた筈のアリシアが立っていたのであった。
「王子って…ミック…あなた…」
 落とした物は果物であった。恐らくミヒャエルのために買ってきたのであろうそれは、部屋の床の上を転がって壁際で止まっていた。
「アリシア…別に騙すつもりでは…」
「言わなくていい!最初から…何と無く気付いていたのよ…。貴方は一般の人とは違うって…。でも…でも、よりによって王子だなんて…。」
 誰一人、その場で口を開ける者は居なかった。面識の無いレヴィン夫妻は言うに及ばず、ユディすらどうしたものか思案に暮れていた。目の前ではアリシアが大粒の涙を溢し、自身ですらどうしたら良いのか分からぬ状態であった。
 ミヒャエルはアリシアの想いに、本当は前から気付いていた。しかし、ミヒャエルを取り巻く状況は切羽詰まったものであり、アリシアの想いに答えを出している余裕などなかったのであった。
 いや、それだけではない。今でもミヒャエルの胸の奥には、あのマーガレットの姿がある。故に、アリシアの想いに気付かぬふりをし、答えを出さぬ様にしていたとも言えたのであった。
 暫くし、いつまでも涙を流し続けるアリシアへと、ミヒャエルは静かに歩み寄って告げた。
「済まないと思っている…。
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