花園の章
V
[4/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
妻へ言った。
「先ずは御親切に感謝致します。それで…俺はどんな経緯でここに居るのか、今一つ理解しかねているのですが…。」
そのミヒャエルの問いに、アーリーンが言った。
「そうでしたわね。私達は未だ名乗ってもいませんものねぇ…。私はアーリーン。こちらは夫のマルコで、娘のアリシアとはもう話されましたわね。ミックさん。」
どうやらアリシアが夫妻に名を話してくれたらしい。
このミックという名であるが、ミヒャエルの愛称であり、友人がこの名で呼んでいたのであった。ミヒャエルも気に入ったようで、王都に近い街などでは、常にこの愛称を使っていたのである。故に、嘘と言うわけでもないのであるが、謂わば命の恩人たる人達に対し、ミヒャエルは些か心苦しく感じていたのであった。
だが、ここで本名を明かせば、万が一と言うことも考えられる。ヘルベルトに生きていることを気付かれでもしたら、この親子もただでは済むまい…。巻き込まぬためにも、名も身分も偽り通すことが、今のミヒャエルに出来る精一杯であった。
それに気掛かりなこともある。ミヒャエルと共にいた二人の騎士のことである。だが、体がこの状態では動かすことも儘ならず、ヘルベルトに見付かれば次はないことは知れている。
気は急いても空回りするだけであり、ミヒャエルは心苦しくも暫く厄介になることに決めたのであった。
「助けて頂き感謝します。何分この様な身で返礼も儘なりませんが、今暫くご迷惑を掛けてしまうことを先にお詫びします。」
「怪我人が何を言ってる。困った時は助け合うのが人ってものだ。医師のユディ先生が全部面倒みて下さると言っているし、君は何の心配もせずに養生していればいい。」
マルコが笑いながらミヒャエルに言うと、ミヒャエルはその言葉に顔付きを変えて言った。
「ユディ…と言いましたか?」
「ああ。この街唯一のお医者先生だ。その先生が何か?」
「あ…いや、恐らく人違いですね。この名も多いですから…。」
ミヒャエルが苦笑混じりに言うと、アリシアがミヒャエルの寝ている布団の上掛けを直しながら言った。
「そうですわね。さぁ、もうお休みになって下さい。あまり長く喋っていると、体力も落ちてしまいますからね。」
「全くです。後でユディ先生もいらっしゃると思いますし、何にせよ、体を治すことが先決ですわよ?」
アーリーンも心配そうにミヒャエルを見ていた。未だ顔色の悪いミヒャエルに、長い間喋らせることは体に障ると感じたのである。
さて、このユディの名にミヒャエルが反応したのは、彼の親友の名と同じだったからであった。その親友も同じく医師を志し、単身モルヴェリへと医学を学びに赴いたのであるが、それっきり音沙汰が途絶えていたのであった。同じ頃にミヒャエルも王城を出て旅を始めており、互いに連絡の取り合える環境には無
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ