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SNOW ROSE
花園の章
V
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て下さいね。」
「厄介を掛けてしまったな…。申し訳ない…。」
「良いんですよ。あ、お名前を伺っても宜しいですか?私はアリシア。アリシア・ウォーレンと申します。」
「俺は…ミックだ。ミック・エリンゲル。」
 男はアリシアにそう名を告げたが、その表情に引っ掛かるものを感じて言った。
「失礼とは思いますが、本名ではありませんね?」
「…!?」
 アリシアの言葉に、男は顔を強張らせた。まるで悪戯を見透かされた子供のような表情に、それを見たアリシアは思わず笑ってしまったのであった。
「そのように分かりやすい表情をすれば、誰しも何か事情があると思いますわ。深くは聞きません。話せる時が来たらお話下さい。私では何の役にも立ちませんが、話せば幾らかは心も軽くなるというものですし…。それでは…」
 アリシアがそこまで言って戸口へ手を掛けると、男は慌ててこう言ったのであった。
「ミヒャエルだ。本当の名はミヒャエルだ。訳あって姓は名乗れないが、君には本当の名を知っていてほしい…。」
 男の不器用ではあるが素直な言葉に、アリシアは静かに微笑んだ。
「教えて下さって嬉しいですわ。呼び名はミックさん…ですわね?ミック・エリンゲルさん、貴方の憂いが晴れるまで、私は貴方の本当の名を口に致しません。心配しないて下さい。それでは、呼んできますね…。」
 そう言ってアリシアは部屋から出ていったのであった。
 男は、トリスから出て山道から谷川へと落とされたミヒャエルであった。
 彼は部屋の中、少しずつ記憶を辿って行き、何とか現在の状況を把握しようと努めていた。しかし、何分体に痛みが走るため、何度も思考を中断せざるを得なかった。
「もし、ここへ流れ着かなければ…俺は…死んでいたか…。」
 開かれた窓から風がそよぎ、レースのカーテンを揺らしていた。窓からは青い空が見え、そこへ流れる白い雲にミヒャエルは、どこか懐かしいような気持ちになっていた。こうやって再び空を眺めることが出来るのも、この家の人々のお陰であり、それを遣わしてくれた神の御心の賜物と言えた。
 正直、ミヒャエルはそれ程信仰心の強い人物ではなかった。しかし、この時ばかりは神に心から感謝を捧げたのであった。

 暫く空を眺めていると、部屋の扉が開かれアリシアと共に二人の人物が顔を見せた。
「良かったわ!やっと目を覚ましてくれたのね。一時はどうなるかと思ったけど、これで一安心ね。」
「全くだ。あの大怪我で、よく生きていたと言うもの。ま、完治するまでゆっくり養生しなさい。何の心配もないのだからね。」
 姿を見せたのはアリシアの両親であったが、ウォーレン夫妻がミヒャエルのことを知ってはいても、当然ミヒャエルは眠り続けていたために面識の無い相手と言うことになる。故に、ミヒャエルは一先ず今の状況を確認しようと夫
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