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SNOW ROSE
花園の章
V
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の診療所へ人を集めて運び込んでおりましたでしょう。」
「いや、俺はこうして家族のように接してくれたことを、とても感謝しているんだ。知られてしまったのだから打ち明けるが、俺は命を狙われている。だから、人目につきやすい診療所より、この家へ運んでくれて本当に助かったんだよ。あなた方を巻き込みたくはなかったが…。」
「王子…勿体無い御言葉です…。」
 彼らの会話が一段落したのを見て、今まで黙していたユディが口を開いた。ユディはミヒャエルとは長い付き合いであり、彼の気性も良く知っていた。ミヒャエルは王子でありながら、こういった風に接せられることが苦手である。貴族やら地位やらで礼を取るのは、自分自身を見てのことではないと感じていたからである。それをユディは昔から知っていたのであった。
「ウォーレンさん。ミックはそういう風に接せられことを、あまり嬉しくは思わないんですよ。今まで通り、ただのミックとして接っしてやって下さいよ。」
「先生…あなたは…」
「僕はただの医者ですよ。まぁ、ミックとは長い付き合いがありますからね。あと、病み上がりの人にあまり気を使わせちゃ駄目ですよ。」
 そう言って、ユディは笑ったのであった。言われたウォーレン夫妻は暫し目を瞬かせ、そして頷いたのであった。
「ユディ…ありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして。」
 そのユディの気の抜けた返答に、その場に居合わせた皆は笑ったのであった。

 その夜のことである。アリシアは言った通り、腕によりをかけた料理で皆を持て成した。マルコは自ら作った山葡萄のワインを振舞い、アーリーンも手製のパンとチーズを出して皆を喜ばせたという。
 この篤い持て成しに、レヴィン夫妻は音楽を返礼として奏したとされるが、何を奏したかは伝えられてはいない。推測ではあるが、そこでは愉しげな音楽が奏でられ、皆の心を楽しませたに違いない。

 この晩餐については、あまり詳しいことは伝えられてはいない。語る必要がある場面ではなかったのであろう。この夜が明けると、ミヒャエル、ユディ、そしてレヴィン夫妻は連れ立ってレクツィへと向かうのである。
 次頁から始まるのは少し飛び、そのレクツィの村から始まるが、肝心のミヒャエルとアリシアのことについては全く触れられていないのである。長い間に欠落したのか、人為的に削除されたかは、現在でも歴史家の意見の別れるところである。
 この時に何があったかは、神のみぞ知ることである。




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