花園の章
V
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王都に近い街ブルーメは、別名<水の都>とも呼ばれている。
内陸にありながらこの別名で呼ばれるのは、この地に多くの湖が存在するためである。それは人工的に作られたものであり、湖同士を運河で結び、それが街の至るところへ延びているのが<水の都>の呼び名の由縁であった。王都が干ばつの被害にあわないのは、このブルーメのお陰と言っても過言ではない。
さて、その一つの人工湖の岸辺に、一人の男が打ち上げられていた。
「お前、大丈夫か!?まさか流されて来たんじゃ…。全く、運の良い奴だ…。」
最初に男を見つけたのは、この湖の近くに住んでいたマルコ・ウォーレンという人物で、マルコは直ぐ様倒れていた男を家まで運び、街の医師を呼んだのであった。
「ユディ先生。この方の容体は…?」
「うーん…未だ何ともねぇ…。かなり弱っている上に、この肩の傷がねぇ…。暫くは様子見だな。今日は傷口が化膿しないように塗り薬と、目が覚めた時に飲ませてほしい粉薬を置いてくから。」
「代価は如何程ですか?」
「いや、気にしなくていいよ。この人にかかるのは僕が賄うからさ。」
「それでは先生が…。」
「構わないさ。代価を考えてちゃ、この人の治療なんて出来ないでしょうが。それじゃ、何かあったら直ぐに呼んでくれ。」
ユディはそう言うと、そのままこの家を後にしたのであった。
この助けられた男は、その後八日程眠り続けていた。あちらこちら打撲や骨折をしており、そのため熱も高いままであった。
医師をのユディは、毎日往診に訪れては肩の傷や打撲、骨折などの具合を見ていたが、さすがに眠っている相手に飲み薬を無理やり飲ませることは出来なかったため、まずは外から治せる部分に集中していたのであった。
「外傷は大丈夫そうだな。骨の方は、あと十日もすればよくなるだろう。」
「それは良かった。しかし先生、このまま目を覚まさないようでしたら、一体どうしたら宜しいですかねぇ。」
「そうだねぇ…。あと数日目覚めなかったら診療所へ運ぶよ。もう動かしても問題は無いからね。」
ユディがそうマルコへと返答した時、扉の向こうで話を聞いていたこの家の一人娘であるアリシアが、話していた二人の前へと姿を見せたのであった。
「待って下さい。父さん、私…私がこの方の面倒を看ますので、移動なんてしないで下さい。」
ユディもマルコも、このアリシアの発言に驚いた。ただでさえ厄介事だと言うのに、このアリシアはそれを自分が遣りたいのだと言っているのである。
アリシアはこの年二十一になる。この歳になるまで婚姻を結ばないのは、この街ではかなり珍しかったが、その娘が素性も知れぬ男を自ら看病したいとは…親からすれば、些か考えさせられるところである。
ここで言うのも憚られるが、動けない病人を看病するとなれば、下の世話もせねば
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