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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十四話 万の便りと二筋の煙
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上と若殿様を支えなければ雨季の作戦に障りが出る可能性がある」
 新城は無表情に鼻をひくつかせた。
――あの天狼の前であれば鼻で笑われたであろうこの言葉が豊久自身の口からさも当然のように発せられるようになった。つまるところ状況を利用して生き延びた結果であっても俺とは全く違うという事だ、あぁこれが産まれを肯定できる人間という事か、まったくもって俺とは違う、羨ましくも妬ましくもあり哀れでもある。

――人は自分と異なる人間を友としなければ腐り果ててしまうと誰かが言っていたな。畜生、ただ腐さらないようにするという事が苦しいのだろうか、あぁそれともとうに腐っているからこそか。  

「なんだよ、笑うな」

 豊久が笑みに苦みを注ぎ足した事に気づいた新城は“すまない”と軽く掌をあげた。

「‥‥‥まぁいいさ。こうしている合間にも時間は流れ、同じ物は二度と流れない。今はこの先の事だ。――なぁ、お前は大丈夫なのか?お前と首席幕僚が見て回らなくては満足に機能しないじゃないか」

「大丈夫ではないといったらどうするつもりだ」
 新城が三白眼を向ける。

「‥‥‥将校の補充を手配する。多少はマシになる筈だ」

「間に合わないだろう、貴様が後ろに下がった頃にはここに敵が押し寄せてくるぞ」

「ッ俺はそんな――」
 豊久の口持ちに張り付いた笑みが一瞬消えうせた。

「すまない、言い過ぎた」
 新城は細巻を取り出し、豊久に手渡した。
「再編は当然だが進めている。向こうが準備を整えるまでには最低限機能するようにするさ。貴様と義兄上が手を回してくれたことには感謝している」

「――そうか、すまない」

「あの時はお前が残ったからな。何事にも順番というものがあっても良いだろう」
 紫煙を吹き出し、新城は光帯を見上げる。
 豊久は燐棒の燃え滓を眺めたまま呻くように答える。

「アレはそれなりに助かる手札をもっていたからだ。今回とは違うさ」

「あの時だって貴様が死ぬ可能性は大いにあった――漆原も死んだ」

「そうだ。兵藤も死んだ、伊藤大隊長殿も死んだ。俺とお前は生きている。米山も、西田も妹尾も、猪口曹長達も」
 二筋の幽かな紫煙が立ち上り、虎城から吹く風と兵達の喧騒が揺らし散らす。

「あれから半年か、随分と変わったものだな、特に貴様は」

「夏川中尉の事か?」
 紫煙を眺める豊久の口元には笑みが張り付いてた。

「前にも言ったが人質は趣味ではない、とりわけ敵の砲火を浴びながら弄ぶ程に器用であると確信できないのであれば」


「人質ではないさ、少なくとも本人は心の底から将校として責務を果たそうとしている。それを使って商売をする馬鹿がここにいるだけさね」
  ほう、と紫色のため息を吐き出した。
「い
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