第四部五将家の戦争
第六十四話 万の便りと二筋の煙
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百六十八年八月十四日 午後第四刻
“新城支隊”支隊長 新城直衛少佐
〈帝国〉軍はもはや間近に迫っている。部隊の再集結と念入りな偵察と夜間の行動停止、兵站線の再構築は本来なら大勝を貪る権利を保有する〈帝国〉軍の行軍に多大な遅延を齎した。
だがそれももはや限界であった。
想定の通り馬堂中佐が率いる支援部隊は最後の輜重部隊と共に明日、虎城へと帰還する旨が軍監本部より発令された。
そして別れの宴――酒もなく常の物より少しばかり豪勢な温食と黒茶が配給されるだけであったがつかの間の歓楽は誰にとっても蒸し殺されそうな真夏の日に飲む冷水の如き幸福であった。
兵舎・司令部庁舎は当番の兵――より豪華な配給を与えられたが運が悪いことには変わりがない――と早々に食事を済ませて眠りに入っている導術兵達を除けば誰も彼もが浮かれて騒いでいる ――その喧騒は水堀を挟んだ南突角堡を眺めている新城少佐にも届いていた。
だが新城にとっては何もかもが不確定である。頼るべきは寄せ集めの敗残兵に未完成の要塞。やってきたのは撤退命令ではなくどうにか中途目的を統一し続けることができれば
「よう、新城」
「挨拶はいいのか」
「一通りはすませた。あとは大辺達に任せたよ――良きにはからえ、ってな」
俺は若殿だからな――そういって笑うと豊久は細巻をくわえ、しばらく手をさまよわせるとようやく燐棒を擦って紫煙を吹き上げた。
「どうだ新城、手間ではあったが連れて来た甲斐があったものだ――工兵の仕事振りには毎度毎度驚かされる」
ただの盛り土同然であった南突角堡は軍監本部の資料を基に計画され、工兵大隊の指導の下で行われた築城により、最新鋭――というよりも野戦築城の再評価を受けて自らの技術の有用性を知らしめ(更なる予算分配を求め)ようとする技術屋達による一種の実験台と化していた。
「まぁどうあがいても元々未完成な上に馬出もある突角塁だ、ここが主攻正面となるだろう」
特筆するべきなのは極小単位にまで簡略化された要塞とでもいうべき砲塁を連ねている事である。
練石と鉄材で作られた丸薬のようなそれは、南突角堡に配備された砲を覆いつくしている。さらにそこには必要に応じて銃兵が潜む大型掩体壕と張り巡らされた壕でつながっており、相互に支援を受けられるようになっている。
「大したものだとは思う。だがそれでもなお十分からは程遠い、どれほど積み重ねようともそう考えざるを得ないだろうが」
敵が膨大な鉄量を叩き付けてくるのならばどれほど整えても十分な備えからは程遠いのである。
豊久も笑みを消して首肯した。
「そうだな――だがまぁ俺も天主でも将軍でもない。できる事には限りがある。悪いが俺も虎城に戻らなければならん。聯隊の戦力も回復させねばならぬし、父
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