フロンティアを駆け抜けて
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フィリムと自分の考えを話したらしい。具体的にどんな内容かは頑なに教えてくれないけれど、それでもジェムを、そして自分のことを認めたようにジェムには思えた。その証拠にダイバは拳を握り、ゆっくりとジェムの前に出す。ジェムも驚くことも怯えることもなく拳を握ってこつんとぶつけた。またお互いに子供の、小さな手が触れる。
「行ってくるわ。そして……終わったら、約束通り、みんなで旅をしましょうね」
「ああ」
「約束ですからね」
「……うん」
バトルタワーでの戦いを終えた後でした約束を口にする。大事なのは勝敗ではなく父親に、見ている人に自分の想いを伝えることだ。腰につけたモンスターボールには、六匹のポケモンがやる気十分で出番を待っている。ジェムは扉を開き、まっすぐ歩いてバトルフィールドへ立つ。サファイアと向き合った瞬間、歓声がどっと沸きまるで音のシャワーに飲み込まれそうになった。ドラコのハイパーボイスとは違う。皆が口々に騒ぎ自分を好機の目で見る視線を受けることに怯まないと言えば嘘になる。でも、その弱気を跳ね除けるためのおまじないは既に貰っていた。
「────この可憐な容姿に誰よりもまっすぐ駆け抜ける強さを宿っていると誰が想像しただろうか!! いや、それは彼女の目が証明している!蒼眼のチャンピオンと紅眼の巫女から受け継いだそのオッドアイ……が!?」
司会者の実況が止まる。たくさんのカメラが入ってきたジェムの顔をクローズアップで映し出しオッドアイを映し出そうとした。しかし――ジェムの目はオッドアイではなく両目が真っ赤になっている。泣き腫らしたり寝不足のそれではない。カラーコンタクトで片方を赤色にしているのだ。観客がどよめく。
「────おおっとこれはどうしたことだー! 彼女の目が真っ赤に!!」
皆の視線が好機ではなく疑問の瞳になる。ジェムの言葉を待つ姿勢になる。それを察して、ジェムは渡されたピンマイクの電源を入れ口を開いた。
「……私はお父様が許せない。私達のバトルフロンティアへの挑戦を操って見世物にしたことを。だから……最初は蒼い方の目はくり抜いて捨てようかとも思ったわ。お父様と同じ目なんて、いやだから」
「ジェム……お前」
「勿論、そんなことをしたらお母様が悲しむからやめたけど。女の子は体を大事にしなきゃダメって教わったから」
観客たちの一部が悲鳴を上げる。わずか十三歳の少女が平然と、淡々と自分の目をくり抜こうとしたと口に出したのだから当然だ。冗談や虚勢とは思えないほどジェムは平常心で、自然に喋っていた。事実、もしジェムがシンボルハンターとの戦いで母親から受けた愛を知らなければそうしていただろうとジェムは自分で思っている。父親を許せず、母親の愛を信じられず、絶望して両の目を捨て
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