花園の章
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ミヒャエル達が襲撃される少し前、旅の音楽家であるレヴィン夫妻はカルツィネ地方から出て、王都のある中央領へと入っていた。とは言え、そこは未だ端にある小さなツェステと言う町であり、二人はそこへ入ったばかりであった。
「やれやれ…。こう暑いと敵わんなぁ。」
「そうですわねぇ…。楽器もこの暑さで歪んでしまって、補修しないとなりませんわねぇ。」
「それじゃそれも兼ねて、今日はこの町で一泊させてもらうか。」
二人は布で吹き出る汗を拭いながら話したものの、この小さな町に宿屋があるとは考えられなかった。
そこで二人は、どこか軒先でも借りられないかと思い、手始めに一軒の居酒屋に入って尋ねることにしたのであった。
「申し訳ないのですが、ここの主人は居られますかな?」
照り付ける陽射しを避けるようにして店内へと入ると、そこへ店員らしき青年が店を掃除していたので、ヨゼフはその青年へと主人の取り次ぎを頼んだのであった。
「旅の方ですね?直ぐに呼んできますので、少しお待ち下さい。」
よくあることなのか、青年は愛想良く答えるや奥へと入って行った。
暫くすると、ヨゼフ位の年齢であろう初老の男が青年と共に姿を現したのであった。
最初、その男は気難しげな顔をしていたのだが、レヴィン夫妻を見るや叫んだのであった。
「ヨゼフ!ヨゼフ・レヴィンじゃないか!」
その男に言われ、ヨゼフもエディアは目を丸くした。
名を呼ばれたヨゼフは、暫くは男の顔を見ていた。どこかで会ったことがあるのであるが、それが中々思い出せないのである。
それを目の前の男が気付いたらしく、苦笑混じりに口を開いたのであった。
「何だ何だ、覚えとらんのか?学生時代、よくユリア教授に叱られとったと言うに。」
「…ジーグか!?ジーグ・フラーツ!」
「今頃思い出したか!旧友の顔を忘れるとは、全くなんて薄情な奴だ!」
名前を聞いたエディアは、少しして彼のことを思い出した。
夫ヨゼフの学生時代の思い出話に、よくこの人物の名が出てきていたのである。会うのは初めてであるが、話をよく聞かされていたせいか、不思議と初対面とは感じられなかった。
このジーグなる人物であるが、ヨゼフとは幼い時分からの仲であり、ヨゼフは音楽を、ジーグは経営学を同じ学校で学んでいたのであった。二人はいつも揃って馬鹿をやっては教授のユリア・ガブリエルに呼び出され、何時間も説教されることがあったのであった。言わば悪友というやつである。
だが、そのユリア教授も数年前に他界し、ヨゼフは旅先でそれを教授が亡くなってから数ヵ月も後に聞いていたのであった。
学業を終えてのち、ヨゼフとジーグは半年ほど連れ立って旅をした。互いの両親は未だ健在であったため、最後の自由と言った風にフラリと旅に出たのである。
この時、国
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