暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
花園の章
U
[9/16]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
のかも知れぬとヨゼフは感じていたのであった。これこそ神の御業ではなかろうかと、ヨゼフは心の中で呟いていた。
 そろそろ夕も迫り来る頃、ヨゼフは全ての経緯を語り終えた。外は日も陰りかけ、心地好い涼風が吹き始めていた。
 馬車は相変わらずの早さで走り続けていたが、中では暫く誰も口を開かなかった。そうして後、最初に口を開いたのはジーグであった。
「世には多くの謎があるもんだ。だが…俺はこれ程不思議な話を聞いたこたぁ無ぇ。まるで…雪薔薇の伝承みてぇな話だ。」
「雪薔薇…か。確かに、聖エフィーリアの神託といい、それらが国に深く関係しているといい…まるで伝説が生まれようとしているようだな。だが、世は伝説ではない。神は世を人間に委ねられたのだ。そう容易く奇跡を齎してはくれなかろう。奇跡とは、かくもそういうもの…。」
 ジーグの言葉に、ヨゼフはそう返した。
 だが、ヨゼフが伝説や奇跡を信じていない訳ではない。ただ、簡単に起こり得るものではないと考えているのである。
 人一倍信仰心の厚いヨゼフであっても、世はそれだけで生き抜けるほど容易なものではないことを知っているのである。
 それ故、ヨゼフは敢えて奇跡の到来を否定的に言ったのであった。
「あなた。奇跡とは、願った人々に齎らされる希望でしょ?こちらが願い祈らなくては、神様だってお手上げではなくて?」
 ヨゼフの言葉に、黙していたエディアが口を開いた。そのエディアの考えに、ジーグも笑って賛同した。
「奥方の仰る通りだ。要は、諦めねぇってのが肝心と言うことだな。ヨゼフ、お前が語ったことは誰にも口外なんぞしねぇが、やはりお前達だけじゃ心配だ。王都に着きしだい、専用の馬車を手配してやる。ミヒャエル王子が見つかるまで、存分に俺に頼ってくれよ。」
「だが…。」
 ジーグの言葉に、ヨゼフは少し躊躇った。未だ、この気さくな旧友を巻き込んで良かったのかと、今更ながらに考えていたのである。
「ここまで来て遠慮する方が失礼ってもんだぞ?こりゃ俺達だけじゃねぇ…国に関わることだ。そんなことに寄与出来るのなら、これくらいは安いもんさ。俺はこの国が好きだ。この世界が好きだ。だから守りてぇんだよ。妻も愛した国だかんなぁ。」
 ジーグはそう言って、夕日に染まった空を見ながら笑った。その笑みには、今は亡き妻と懸命に働く息子への深い愛と、そして強い絆とが感じられた。
 ヨゼフはそんなジーグの言葉を受け、彼から力を借りようと決心したのであった。これから先、一体どのようなことが起きるか分からず、誰にも責任など取りようもない状況ではあったが、心なしか三人は、どのような困難でも乗り越えられるように感じていたのであった。

 彼らはこの日トリスの街まで入り、そこで宿泊することになった。
 街へと辿り着いた時は夕も遅く、空には満天の星
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ