花園の章
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しなかったのであった。
このワッツであるが、実はコンラートと親友であり、家が代々馬車屋を営んでいた。ジーグもワッツの両親とは幼馴染みと言うこともあって、ワッツの生まれた時より息子同然に可愛がっていたのである。
それ故に、ジーグは馬車をいつも馭者をワッツに頼んでいたのであった。一人前になった息子同様、ワッツが一人立ちしたことが嬉しくて仕方ないと言った風であったのである。
しかし、公私混同を由とはしないワッツは、食事は主人と共にしないのが当たり前であったが、この時はレヴィン夫妻にも誘われたため、無下に断ることも気が引けたために同行したのである。
「その歳で一人前の馭者として働いてるとは、全く大したものですなぁ。」
運ばれてきた食事を口にしながら、ヨゼフはワッツに話し掛けた。先にも語ったが、ワッツは公私混同をしないため、食事中あまり口を開こうてはしなかった。しかし、このヨゼフの話し掛けに、ワッツは恐縮しながらも静かに口を開いたのであった。
「私の家は代々馭者を生業としております。私も幼い時分より馬に慣れ親しんでおりましたので、馭者となることが自然だったのです。父は厳しかったですが、それは乗って下さる方々の命を預かるが故の、至極当然の厳しさだったと思います。私はそんな父を誇りに思い、私をここまで育ててくれたことに感謝しております。」
ワッツのこの言葉に、レヴィン夫妻は深い感銘を受けた。そして、ある過ぎ去りし日を思い出していたのであった。それは自分達の子供のことである。
レヴィン夫妻が旅を始める前、一年程キシュに住んでいたことは語ったが、そこでエディアは身籠ったことがあった。だが不幸にも、その年キシュは大洪水に見舞われ、レヴィン夫妻もその被害にあったのである。
その時、エディアは暴れる水の流れに飲み込まれてしまい、危うく命を落としかけたのであった。幸いにして命は助かったものの、お腹の子は流産してしまい、それ以降子供の産めぬ体となってしまったのである。
エディアはその哀しみを癒すべく、夫ヨゼフと共に楽士として旅に出たのであった。名目は先祖の足取りを辿ると言うものになっていたが、エディアの中では、この世に生まれることの叶わなかった我が子への追悼の旅路でもあったのであった。
旅をする夫婦の大半はそういった経緯のもの多く、ジーグもそれとなくは気付いており、二人に子供のことを聞くことはしなかったのである。
一行はその後、他愛もない話をしながら食事を終えると、再び馬車へと乗り込んだ。ワッツは馭者のラッパを鳴らし周囲に出発することを知らせ、緩やかに馬車を出したのであった。
外は陽射しが降り注ぎ、気温はピークに達していた。馭者台にも屋根は付いてはいるが、中よりも陽射しを受けやすいことは否めない。それにも係わらず、ワッツは平然と馭者を勤め
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