花園の章
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「いやぁ…これは金に価する名演だ。」
そう呟いたのは、客として訪れていた王国警備兵の一人ヅィートレイ・キナンであった。
この人物は三国大戦中、諜報部で活躍した人物であり、無類の音楽好きとしても知られている。だが、彼は楽器を奏することはなく、大戦後に評論家として数冊の書物にその名を残している。
その中の一冊「古今演奏名鑑」にレヴィン夫妻の記述があり、彼はここで夫妻の演奏をこう讃えている。
- 私はその時、音の中に神の姿を垣間見た。音楽がこれ程までに豊かに広がることは、そう滅多にあるものではなかろう。神が選びし作曲家の作を、神に選ばれし演奏家の手に寄って聴けるのは、人生を通しても一度あればましである。悲しきかな、これ以降、私はレヴィン夫妻のような奏者には出会えなかった。 -
この日レヴィン夫妻は、結局アンコールを含め計十八曲も演奏し、人々の心を潤わせたのであった。先に語ったヅィートレイの他、大半の客は音楽にも代価を支払ったことは言うまでもなかろう。無論、それはレヴィン夫妻へ支払われるべきであるが、夫妻は受け取ることを断った。
「有難いが、私は商売をしに来たわけじゃないのだ。」
「そうは言うが…これはお前達の演奏にと支払われたもんだ。受け取って貰えねぇと、客に顔向け出来ねぇってもんだろ?」
「だがなぁ…。」
翌朝、レヴィン夫妻とジーグの間で押し問答が繰り返されていた。
レヴィン夫妻はただ客に楽しんでもらうために演奏しただけであり、まさか代価が支払われているなど予想していなかったのである。それも、通常よりも多い金額が集まっており、夫妻は困り果ててしまっていた。返そうにも無礼であり、受け取るには気が引けると言う有り様である。
そこで、この問答を聞いていたコンラートが父へと一つの提案をした。
「なぁ親父。この方達が王都へ向かってたんだったら、親父と一緒の馬車で連れて行けば良いじゃないか。演奏の代価は、その旅費にすることにすれば収まるだろ?親父だったら、早く安く済む道を知ってるから、一石二鳥だと思うけど?」
「そりゃ友人として出来ねぇ相談だ。金なんぞ貰わんでも、俺は連れてくつもりだったからな。」
「親父?それじゃ、この方達が気構えちまうだろ?商売ってのは人の心を構えさせちゃならねぇって、親父の口癖じゃないか。支払っておいた方が、幾分旅を楽しめるってもんだろ?」
このコンラートの提案を、レヴィン夫妻は大いに歓迎した。
「ジーグ、お前の息子の言う通りだ。この先の旅路を、その金で世話してほしい。なぁ、エディア。」
「ええ。それが一番良いと思いますわね。」
それを聞いたジーグはやれやれと言った風に苦笑し、「分かった。任されたよ。」と溜め息混じりに言い、レヴィン夫妻はそれをみて笑ったのであった。コンラートは問答の解
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