暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
花園の章
U
[3/16]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
て再会出来る日が来ようとは!ヨゼフ、一体どれ程旅を続けとるんだ?」
「かれこれ…二十年近くになるな。エディアと一緒になって一年程はキシュの町に住んでいたのだが、そこでは商売にならんかったからなぁ。それで旅楽士になったと言うわけだ。」
「奥方も大変ですなぁ。」
「いいえ。私も元来旅好きな性分ですし、それに音楽を生業と出来るのはとても幸福ですわよ?」
「いや全く、良くできた奥方だ!」
 ここは店の二階にあるジーグの来客専用の部屋だ。急な来客があっても、そこには寝具も常に揃えてあり、宿屋と全く変わらないようになっていた。
 一階の居酒屋からは、多くの客たちが賑やかに騒ぐ音が響いている。
 その上で、三人は酒と食事を囲みながら談笑していたが、ふとエディアがヨゼフへと言った。
「ねぇ、あなた。こんなに親切にして頂いたのだから、お店で音楽でも奏して差し上げましょうよ。」
「それは名案だ!ジーグ、どうだね?」
「そう言うことは大歓迎だ!たまにゃ俺も音楽が聞きてぇからなぁ。よし、早速店へ降りるか。」
 話は直ぐに纏まり、三人は一階の店へと向かった。ヨゼフは手製の小型リュートを、エディアはトラヴェルソをそれぞれ手にして店へと入るや、客たちは直ぐ様二人を拍手で迎え入れたのであった。音楽が始まることを知ったからである。
「皆様、盛り上がっておりますかな?今日は我が旧友と久方ぶりに再会し、その旧友が皆様へと音楽を贈ってくれるそうです!」
 ジーグがそう言うと、客からは盛大な拍手が沸き起こった。
 このツェステも多分に漏れず、あまり娯楽の多い町ではない。そこへ旅楽士が来ているとなれば、誰であっても喜んで音楽を聴きたがるものであった。
 さて、少しの間ヨゼフはリュートの調弦をしたいたのであるが、その間、店内は静かであった。皆は煩くして機嫌を損ねてはならぬと、黙して待っていたのである。それだけ音楽に飢えていたとも言えよう。
 暫くして調弦が済むと、ヨゼフはエディアに合図を送って演奏を始めた。
 ジーグは壁際にあった椅子に腰掛け、その音色に耳を澄ませた。息子のコンラートも同様、彼はカウンター越しにそれを聴いていた。
 夫妻が初めに演奏したのは、この場に相応しい舞曲による組曲であった。アルマンド-クラント-サラバンド-ガヴォット-メヌエット-ブーレから構成されており、作曲者はアレッサンドロ・スカッリと言うリチェッリ出身の作曲家である。この作曲家は他に、十六声のモテットやオラトリオ「白薔薇の乙女」などの宗教音楽知られ、ここプレトリスでも有名であった。
 だが、次に演奏された曲の方が、ここに集まった人々には歓迎されたようであった。レヴィン兄弟の作品である。演奏されたのは二長調の幻想曲と幾つかの小品であったが、そのどれもに人々は惜しみ無い拍手を贈ったのであった
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ