花園の章
I
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て互いの拳をぶつけ合ったのであった。これは古くから騎士に伝わる、互いが相手を信頼している表現であった。
「それじゃルース。今までの宿代を…」
「いいんですよ。生きていれば、いつだって支払いに来れますからね。これが収まったら、必ず払いに来て下さいよ?」
ルースにそう言われたミヒャエルは、暫く言葉を躊躇った。ルースは真実にミヒャエルのことを思ってくれ、ミヒャエルがこの争いに終止符を打つことを確信しているように見えたからであった。それだけ信頼が厚い証拠でもあり、ミヒャエルは心から感謝した。
「ありがとう…ルース。」
「礼を言われるようなことじゃないですよ。それでは…お気をつけて。御武運を…。」
それがここでの会話の終わりを告げた。
ミヒャエルはそのままその場を去り、ルースは再び仕事へと戻って、もう顔を合わせることは無かったのであった。
「ヘルマン、シオン。それじゃ…行くか。」
「はい。」
ミヒャエルが合図すると、二人は同時に返答してミヒャエルへと付き従った。
未だ明けきらぬ朝の静けさの中、三人は何も言わずに歩き出した。目指すはヘルベルトの待つ王都、プレトリスである。
夜明け少し前に出発して暫くは、何事もなく順調に進んでいた。尤も、この周辺の山々もルーン公の治める領内であるため、そう容易くヘルベルトの手兵も動けない筈である。
しかし、そう思っていたのも束の間、朝日が山間を染め上げた頃であった。
ルーン公領と隣のバッサナーレ伯領の境付近で、不意に三人へと襲い掛かる者達がいたのであった。
「何者だ!?」
ヘルマンとシオンが剣を抜き払って威嚇するが、目の前に現れた者達は黙したまま、不意に三人へと斬りかかってきたのであった。
その者達からは殺気が微塵も感じられず、闘うヘルマンとシオンは戸惑ってしまった。だが、ミヒャエルだけはその感覚に覚えがあったのであった。
「碧桜騎士団か!」
そう…目の前に対峙していたのは、あの碧桜騎士団暗殺部隊であった。
何人もの貴族を闇へと葬った、第二王子ヘルベルトの精鋭部隊であり、どのような騎士団よりも厄介で危険な相手だと言えた。
「ミヒャエル様、お下がりください!」
しかし、ここは狭い山道であり、下がろうにも背後は崖になっているのであった。それをこの暗殺部隊が逃す筈も無く、ジリジリと前へ前へと競り出して来る。
「己…何故にミヒャエル様を!」
ヘルマンがそう口走った殺那、一人のアサシンが隙を突いてミヒャエルへと短刀を投げつけ、それがミヒャエルの肩へと深く突き刺さり、そしてその反動でミヒャエルは背後の谷へと落下してしまったのであった。
「ミヒャエル様!」
ヘルマンとシオンが同時に叫んだ。
しかし、ミヒャエルの姿はどこにも見い出すことは出来ず、ただ茫然と谷底を
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