花園の章
I
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の真夜中、ミヒャエルは宿の主人ルースに街を出ることを告げた。
ルースはそれを聞くと、少し淋しげな表情を見せた。ルースはこの街でただ一人、ミヒャエルの真実を知っている人物であり、彼のことを案じていた。
ルースがただの宿の主人であるにも関わらずミヒャエルのことを知り得たのは、この人物が以前、ルーン公に仕えていた騎士であったからである。訳あって騎士を辞し、こうして宿の主人となっても、時折ルーン公のために働いていたのである。
それがどういうものであったかは知られていないが、恐らくは街の治安に関わることであろうと言われている。
そのルーン公の甥にあたるミヒャエルは、ルースにとってやはり特別な存在であったやも知れない。
それはさておき、ミヒャエルに出立を告げられたルースは、戸棚から一つの皮袋を取り出してミヒャエルへと渡した。
「この時のために、ルーン公様からお預りしておりました。」
「これは…?」
それは拳二つ分程の袋で、持つとずっしりと重かった。ミヒャエルは不思議そうに皮袋の口紐をほどいて見ると、中には金貨が詰まっていたのであった。甥を案じ、どうにか手助け出来ぬものかと思いを巡らせたルーン公の配慮であり、それとともにエールを贈っているのでもあった。甥を信じている証とも言えよう。
「しかし…いつこれを?」
「数日前に届けられたんですよ。私宛の書簡にゃ“そろそろ必要になるだろうから"と書いてありました。それから…」
そこでルースは口ごもった。あまり良い話ではないとミヒャエルは感じたが、それを聞かぬわけにはゆかない。そのため、ミヒャエルはルースに「何だ?」と、先を促すために言葉を掛けたのであった。
「それですがねぇ…。どうもですね、王家情報伝達組織が全く沈黙しちまったと言うことなんで。王城の内部事情は、十二貴族ですら判らない状態であるとのことで…。」
「何だと!?それじゃ…国王の病状が伝わってこないのは…」
「どうも…そう言ったことが原因かと…。ミックさん…いや、ミヒャエル殿下。この先、くれぐれもお気をつけ下さい。あまり大声じゃ言えませんが、俺はミヒャエル殿下が次期国王に相応しと考えております。あの第二王子とミヒャエル殿下を比ぶべくもなく、ミヒャエル殿下の方が、この国を豊かにするにしろ護るにしろ適していると思いますので。」
「国王…ねぇ…。俺にその器があるかは、国の十二貴族の長達が決めることだ。」
「それは分かっています。ですが覚えておいて下さい。俺のように、ミヒャエル殿下を信頼して助力を惜しまない者は大勢います。何があろうと、決して命を落としてはなりません。」
「分かっているさ。俺はここで死ぬつもりなどない。ヘルベルト兄上を止めなくてはならないからな。地を這ってでも生き抜いてやるさ。」
そうミヒャエルが言うと、二人は笑っ
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