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SNOW ROSE
花園の章
I
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。」
 ミヒャエルはルースに飲み物を頼むと、空いている椅子へと座った。
 ルースとは、この宿の主人である。陽気な性格で、誰でも気さくに話せる人物であるが、決して口が軽いと言うわけではない。むしろ他人の秘密は絶対に洩らさない、信頼の置ける人物である。
「いやぁ、こうでもしないと、ここの宿代も儘ならないしな。」
 ミヒャエルは苦笑しながらそう言うと、ルースが出してくれた飲み物を口にした。それはオレンジやマンゴーなどのフルーツを搾った果汁を、地下水で冷やして炭酸水で割ったものであった。
「はぁ…生き返る…!」
 ミヒャエルの言葉に、今度はルースが苦笑しながら言った。
「ミックさん、宿代は気にすることはありゃしませんて。ルーン公様から大方の話は聞いてますんで、気がすむまで居てくれて構いませんよ。」
「そう言ってくれるのは有難いんだが…厄介ばかり掛けられないしな。ま、人の中にいた方が逆に目立たないと思うし、情報も集め易いってもんだろ?」
「ミックさんがそう言うんでしたら…。しかし旦那、あの碧桜騎士団の奴らにゃ、中だろうが外だろうが関係無ぇそうですぜ?噂じゃ、ヘルベルト様に逆らったラタン子爵は領内で、それも民衆の面前で殺されたとかで…。」
 ルースの言った事件は、この年の前年、王暦五七八年二月に起こったもので、ヘルベルトが表立って動いた最初の事件と言えるものである。
 これが一連の騒動の幕開けであり、この後、同年四月には第一王位継承者であったヴィーデウスの事故死が起こるのである。
 事故死…と書いたが、無論そうではない。それは後にも出てくるので、ここで詳細は語らずにおこう。
「ルース、心配してくれてるのは分かってるよ。だが、ここは子爵領じゃない。公爵である叔父上が守っている立派な街だ。兵だって常に巡回して民を守っているし、そう容易く手出しは出来ないだろう。」
「それならいいんですがねぇ…。」
 そのルースの言葉に、ミヒャエルは再び苦笑いを浮かべたのであった。
 確かに、ミヒャエルが王都周辺まで戻って来る時、様々な不穏な噂をミヒャエルは耳にしていた…。
 第一に、ヘルベルトが治める三つの街が封鎖されているということ。噂によれば、ヘルベルトはこれらの街の民を使役し、何かを作っているらしいという。しかし、それが何かというのは全く分かってはいない。
 第二に、第二王妃ナルシアの死。このナルシアという王妃は、第一王子ヴィーデウスの母である。しかし、亡くなったという情報までで、どうして亡くなったかは分からずじまいであった。
 そして第三に、国王が病で伏せたというもの。これもまた、どういった病なのかも知らされてはいないようで、誰一人として、王の病名を知らなかったのであった。

 さて、時は夕暮れ。ミヒャエルは仕事帰りに、いつものように情報を集
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