第22夜 人喰
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指一つ動かせない、欠落者なりえないトレックだからこそ、その本能に瞬時に反応できなかった。
『ドレッドサマ……イヤダ、オヤクニモタテズ………』
「え……あ……ガ、ルド………?」
『ソノコエ……トレッ……タスケ………イヤダァ』
貌。見知った貌。そして、その横から、下から、上から湧き出る見知らぬ貌。貌。貌。
形だけの、表情だけの、しかし人間のそれとは違い、冒涜的なまでに現実と剥離した悪夢の具現。
『ミンナドコォ……?クライヨ、アカリガナイヨォ。コワイ、ナンデオイテクノォ』
『ニンムガ、ニンムタッセイガ、エイコウガ』
『イヤダ。オワリハイヤダ。クライ、サムイサムイサムイサムイサムイサムイ………カァサン』
『シラセナケレバ、シラセナケレバキエラレナイ』
『ドウシテダ、シネバラクニナルトセンセイハイッタノニ、ドウシテコンナニクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイ……クルシィヨォ』
『ボクハボクガボクノボクハダレダ?ダレダレダレ、ダレデモイイ。キエテナクナル。ヤミガ、ヤミガソコマデ』
なんだ、これは。こんな、こんな話は聞いたことがない。
これは、この呪獣に殺された人々の貌か、魂か。
ここにあるのか。この、呪いの塊の中に、全部閉じ込められて。
牢獄のように出られず、拷問のようにじわじわと、地獄のように救われず、延々と死苦を味わい続けた末に、望みを捨てることすら赦されない者たちの慟哭。こんなのは知らない、知ったことではないと自分の中の誰かが叫び、引金を引こうとする。そうでもしなければ、この狂気――そう、狂気だこれは。あり得ないほどに狂ったこの光景に、現実に、心が呑まれる。
貌の中に、自分の貌があって、永遠にそこに閉じ込められて、永遠に。永遠に。
「う、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
助けられないか、なんて、考えられなかった。ただ、恐怖と狂気に呑まれる心を現実に引き留める事しか出来なかった。それでも引金が引けないまま。
『オマエモ、イコウ』
ガルドの貌を内側から突き破って飛来した赤黒い棘が、トレックの左脇腹を抉り飛ばした。
衝撃、炎に炙られるような熱、水底のような冷たさ、遅れて激痛。
トレックの視界は、こんなに暗い夜なのに真っ白に染まった。
= =
ギルティーネは、トレックが刺される直前まで彼の「手出ししなくていい」という命令に従うように動かなかったが、トレックに呪獣の不意打ちが飛来した瞬間には動き出していた。それでも放たれた矢より恐ろしい速度で発射された刺突を食い止めるには至らず、彼女の剣が呪獣に止めを刺
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