巻ノ九十三 極意その十一
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「やはりな」
「そうですか」
「うむ、わしはそう思う」
「それがしもです」
「しかし茶々様はわかっておられぬ」
こうしたこともというのだ。
「まだ天下人と思われておるわ」
「そういえばあの方は長い間大坂から」
「あの城からな」
「出ておられませぬな」
「ほぼ本丸から出ておられぬ」
「それだけこの世をご存知でない」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「非常に難儀な方じゃ」
「それだけに」
「まだ天下人と思われているからな」
豊臣家、この家をだ。
「右府殿は謀反人と思われておるわ」
「逆臣ですな」
「豊臣家へのな、しかし豊臣家自体もじゃ」
「考えてみますと」
「逆臣となる」
他ならぬこの家もというのだ。
「織田家へのな」
「そうなりますな」
「そうじゃ、因果は巡るというが」
「逆臣であるが故にな」
「逆臣とですか」
「しかし右府殿はそうは思っておられぬ」
家康、彼自身はというのだ。
「自然とじゃ、豊臣家はもう天下人の資格を失っておったとな」
「思われてですな」
「ご幼少のお拾様では天下人にはなれぬ」
「この天下は」
「磐石ならばともかくじゃ」
天下を治めるそれがというのだ。
「まだ磐石ではないからな」
「それではご幼少でしかも後ろ盾の方がおられぬと」
「天下人にはなれぬ」
「だからですな」
「右府殿が天下人となられたまで」
「むしろあの様になった豊臣家こそがまずいですな」
「大和大納言殿がおられればな」
秀長のこともだ、昌幸は話に出した。
「まず大丈夫であった」
「あの方が後ろ盾ならば」
「お拾様のな、若しくは治世の仕組みが出来ていればな」
幼君の秀頼でもというのだ。
「よかったが」
「どちらもないですな」
「最悪でも関白様がおられれば」
「あの方が後ろ盾ならば」
「右府殿も動かれなかった」
秀次だけでもいればというのだ。
「そのどなたもおられず仕組みがなくては」
「天下人から落ちるのも道理ですな」
「そうじゃ、右府殿に移った」
「そういうものですな」
「今の豊臣家は一大名位じゃ」
「その領地を治める位ですな」
「それ位じゃ、しかし茶々様はわかっておられぬ」
大坂から出ていないからだというのだ。
「そしてその茶々様を誰も止められぬ」
「しかし父上なら」
「出来る」
昌幸は幸村の今の言葉に万全の声で言った。
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