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真田十勇士
巻ノ九十三 極意その八

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「そうも思うが、しかし天下はやはりな」
「泰平が一番いいですな」
「民達にとっても」
「それに越したことはないですな」
「何といっても」
「そうじゃ、戦になればな」
 それこそというのだ。
「民達は逃げねばならんからな」
「ですな、その度に家も焼かれますし」
「時として人夫にも使われますし」
「民にとって戦はいいことはありませぬ」
「それは事実ですな」
「そうじゃ、戦はないに越したことはない」
 幸村もこのことはわかっている、それでだった。
 彼は戦を望まない気持ちも強い、しかし同時に戦を願いもする己の心のこともわかっていた。それで複雑に思うのだった。
「そう思うがな」
「しかしですな」
「戦があればまた一働き出来ますな」
「因果な考えですが」
「そう思うのもまた事実ですな」
「卑しいか、それは」
 幸村は己の心の中にそうしたものも見てだ、瞑目して言った。
「戦を望むのは。己の為に」
「それを言うなら我等も同じです」
「何時までもここにいたくもないとも思いますし」
「戦で世にも出たいですし」
「我等も同時に思います」
 十勇士達も俯いて言う、彼等も幸村と同じ考えである。それで誰も幸村に対してこのことを強く思うのだった。
 それでだ、彼等は言うのだった。
「ですから何もです」
「我等は申し上げられませぬ」
「どうしてもです」
「それは言えません」
「どうにも」
「そうか、そう言うと我等は全て卑しいか」
 幸村は瞑目したまま述べた。
「嫌なものじゃな」
「ですな、確かに」
「そうなりますな」
 十一人は酒を飲みつつ言うばかりだった、だがその話を聞いてだ。
 昌幸は幸村にだ、考える顔でこう言った。
「そうした風に思うのも人間だからのう」
「だからですか」
「うむ、そう思うこともない」
 卑しいと、というのだ。
「むしろ御主達は戦にならぬ方がよいと思うな」
「はい、どちらかといいますと」
「ならばじゃ」
「よいと言われますか」
「むしろ世には戦を求める者の方が多い」
 己の身を立てることを考えてというのだ。
「そればかりをな」
「それは」
「そうした者達と比べるとな」
「五十歩百歩では」
「しかしまた違う」
 その五十歩と百歩でというのだ。
「むしろ御主達は一歩位退いてじゃ」
「そこで、ですか」
「踏み留まっておる、五十歩や百歩よりもな」
「よいですか」
「遥かにな、そこまで己を卑下することもないわ」
「ならよいですが」
「それを言うとわしの方が卑しい」
 昌幸は自分から言った。
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