巻ノ九十三 極意その七
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「しかし大助は兄上に引き取って頂きたい、そして御主達は」
「ははは、言うまでもありませぬぞ」
「我等主従は義兄弟同士でもありませぬか」
「死ぬ場所は同じと誓ったではありませぬか」
「ではです」
「拙者と共にいてくれるか」
幸村は十勇士達の明るい言葉を受けて一旦瞑目した、そのうえで微笑んであらためて彼等に対して述べた。
「有り難い」
「殿以外のどなたにも仕える気には毛頭なれませぬ」
「そして殿から離れることもです」
「このことは変わりませぬ」
「だからこそ今もここにおります」
共に九度山に流されているというのだ。
「我等は離れませぬ」
「ここにずっとおります」
「殿がおられる場所にいますので」
「ご安心下さい」
「そうか、ではこれからも頼む」
幸村は十勇士達に言った。
「ここから出られるかわからぬが」
「殿のお傍なら問題ありませぬ」
「我等にとってはそこが極楽です」
「ですからご安心下さい」
「我等のことは」
「そうじゃな、拙者には御主達がおる」
十勇士達の温かい言葉を受けてだ、幸村は微笑んだ。そのうえで彼等に対して酒を出してあらためて言った。
「飲むか」
「おお、焼酎ですな」
「それを今からですか」
「皆で」
「うむ、今日はしこたま飲みじゃ」
そのうえでというのだ。
「楽しく酔うか」
「はい、それでは」
「思う存分飲みましょう」
「我等十一人で」
「肴はこれじゃ」
幸村はここで梅干を出した、壺に並々と入っている。
「これでな」
「はい、これを食いながらですな」
「皆で飲みですな」
「そして楽しく飲みますか」
「これより」
「そうしようぞ」
こう言ってだ、幸村は早速だった。十勇士達と共に焼酎を飲み梅干を食べはじめた。そしてそのうえでだった。
幸村はふとだ、窓から見える夜空を見た。そこには星達が輝いていた。
その星達を見てだ、幸村はこう言った。
「今は穏やかだのう」
「星達もですか」
「左様ですか」
「実にな」
そうだというのだ。
「よいものじゃ、しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「あくまで今はじゃ」
こう言うのだった。
「泰平に向かっていてもそれは長い目で見てもじゃ」
「それでもですな」
「一戦あるやも知れぬ」
「まだそれはありますか」
「なければよいとも思いあってそこで働きたいとも思う」
戦になればというのだ。
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