黒衣を狙いし紅の剣製 08
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だけで来たのではないらしく、懸命にティアナがシュテルにしがみついて止めようとしてくれている。
身体を動かすどころか言葉を口にするのも難しい状態なだけに助かった。……やばい……安心したら急に意識が
「それに……今はあんな男よりもショウさんですって!」
その言葉でシュテルは我に返ったのか、半ば強引にティアナを振り解くとこちらに駆け寄ってきた。もしも余裕があったならば、もう少しティアナに優しくしてやれと言っていたかもしれない。
「ショウ……ショウ、しっかりしてください!」
「ぅ……あまり揺するなよ。…………こっちは……」
怪我人なんだぞ。
と続けようと思ったのだが……涙を流すシュテルを見て何も言えなくなってしまった。
こいつと出会ってから人生の半分以上の時間が経過しているわけだが、こんな顔を見たことは一度としてなかった。これまでに何度か入院するような怪我を負ったことがあるが、俺の記憶にあるのはいつもの無表情でからかってくるこいつの姿だけ。
もしかすると、これまでも俺が怪我をする度に人知れず泣いていたのかもしれない。そう思うと……普段のことも含めて何も言えない気持ちになってくる。
「シュテル……泣いてるのか? ……お前も…………泣いたりするんだな」
「当たり前です。……私だって……悲しいことがあれば涙をこぼします」
「そっか……でも…………お前のそういう顔は……見たくないな」
見慣れないだけにこっちまで悲しくなってくる。
いや……きっとシュテルだけでなく、あいつらが泣いていたなら俺は同じような想いを抱くのだろう。だけど今はそのことを考えられるほど余裕はなくて……。
多分……次に起きた時には小言や説教を色んな奴からされるんだろうな。……まあ……甘んじて受けるしかないか。
「……ショウ? ……ショウ、聞こえていますか? しっかりしてください! ショウ!」
必死に俺の名を呼ぶ声もどこか遠く……俺の意識は闇へと消えて行く。
ただそれでも……強く握り締められた手から伝わってくる温かさは、意識が完全に消えるまで俺の心に安らぎをくれていた。
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