間章W
月影にそよぐ風
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「ミューテル、正直に申せ。誰もそなたを咎めはせん。もとより、人の命は原初の神が定めしもの故に、誰がそなたを責められようぞ。」
大司教のその言葉に、ミューテルは意を決して重い口を開いたのであった。
「もって三日と言えましょう。悪くすれば二日はもちません…。」
「なぜ…?どうしてレイチェルが!?なんであの子が死ななければならないの!?」
ミューテルの言葉に、モニカが半狂乱になって叫んだ。その横で、アンソニーは泣き崩れた妻の肩を抱き、涙を落とす彼女を静かに宥めたのであった。
アンソニーは、薄々は気付いていたのである。この病は治らぬと…。
暫くしてモニカの心が落ち着くと、それを見届けたように大司教は言ったのであった。
「そうか…。ではミューテル、これを試してはくれぬか?」
そう言うと、大司教は懐よりあるものを取り出した。それを見て、ミューテルは驚いてしまったのであった。
「そ…それは…!」
大司教が手にしたものは、一般には伝説とされていた“雪薔薇”であった。それは摘み取ってからかなりの時を経ている筈であったが、全く枯れる様子はなかった。むしろ、みずみずしさはその場で摘み取ったかのようであり、仄かな香りさえ漂っていたのである。
「これは王都の聖グロリア教会が保管していたものじゃ。」
そう、これは千年以上前に、聖グロリアの奇跡によって齎された雪薔薇の一輪であった。現在では残ってはいないが、この時代には六輪が存在しており、その一輪を大司教自らが出向いて譲り受けてきたのであった。
コロニアス大聖堂にも存在していた雪薔薇を、何故に譲り受けねばならなかったのか?それは、雪薔薇がそれぞれに、その性質が異なっていると考えられていたためである。
「ミューテル、これをそなたに渡す。直ぐに薬を調合し、レイチェルへ与えるのじゃ。」
「畏まりました。」
後方で、このやり取りをティモシーはずっと見守っていた。
彼はレイチェルの具合が芳しくないと聞いており、自らも何か出来ないかと考え、直接大聖堂へと大司教に会いに行ったのである。
普通であれば、とても吟遊詩人などに会う筈はないのだが、ティモシーはそれを知りつつ大聖堂へ赴いた。そして、大聖堂へ来る病を患った人々のために音楽を奏で続けたのである。
それを知った大司教は、音楽を奏していたティモシーに会うことにしたのであった。
皆、レイチェルのことが気掛かりなのである。家族は元より、周囲に住む人々もまたレイチェルを心配していた。いつしか、レイチェルが元気に外を走る姿を思い描いていたのである。
さて、ミューテルは渡された白薔薇で、早々に薬を作り始めた。何も食べることが出来ないレイチェルのために、飲みやすい煎じ薬として他の薬草と調合し、それをレイチェルへと与えたのであった。
意識が
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