間章W
月影にそよぐ風
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たのであった。
無論、雪薔薇があることは、クラレスとアーベル大司教しか知らない。それを教えたのは他ならぬ大司教だったのである。
「レイチェルの具合はどうかね?」
レイチェルの診察の後、クラレスが一人で薬の調合をしている時であった。そこへ見回りに来た大司教が入って来たのである。
「これは大司教様。この様な場所へお越しにならずとも、後程お伺い致しますが…。」
入って来た大司教へ向かい、クラレスは手を休めて礼をとったが、大司教は手でそれを制してクラレスに言った。
「畏まらんでもよい。ここには我等しかおらんでな。して、容体はどうなのじゃ?」
大司教から問われたクラレスは、その顔に陰りを見せて答えた。
「率直に申し上げ、これ以上体に負担を掛けることは出来ません。レイチェル自身、まだそれと気付いてはおりませんが、暫くすればこの薬とて効果がなくなるでしょう…。」
「では…悪化しておるのじゃな…?」
「…はい…。」
暫くの間、二人は沈黙していた。レイチェルは未だ十一の子供である。それにも関わらず体は軽く、同世代の子供と比べても頭一つ背も小さかった。
大司教もクラレスも、そんなレイチェルのことが心配で堪らず、どうにか病を癒す方法を探していた。古文書を紐解いてみたり、他国の医師を招いて尋ねてみたりと四苦八苦していたが、一向に答えを見い出すことは出来なかったのであった。
クラレスの薬さえやっとのことで作り上げたものであったが、それさえ効果がなくなると言うことは、レイチェルにとっては“死”を意味しているに等しい状況なのである。
「クラレス司教よ…。我等は信仰心が弱いのであろうか…?幼き少女一人助くことさえ出来ぬとは…。」
弱々しく呟いた大司教の言葉に、クラレスは返す言葉もなかった。自らも同じように感じていたためである。これで希望を持てと言われても、とても持てるものではなかった。
確かに、雪薔薇はある種の病に効果があることは知られていた。一般に言う「雪薔薇病」がそれである。
伝承によれば、この病は雪薔薇を煎じて飲むと良いとされていたが、レイチェルには全くその効果がなかったのであった。
- 如何にすべきか…。原初の神はレイチェルに、一体何を求めておられるだ…。 -
まるで迷路を辿るような精神の問い掛けに、クラレスは深い溜め息を洩らした。
「大司教様。今、我々に出来ることを致しましょう。祈りはもとより、レイチェルに行ってきたことは彼女だけでなく、多くの人々にも役立つものと考えております。ここで諦めるわけには行きませんので…。」
「そうだな…。わしも他教会の古文書を閲覧出来るよう、早々に手配を進めよう。ともすれば、それらに答えがあるやも知れんからの。」
大司教はそこで話を切り上げ、クラレスに調薬に戻るよう言ってその
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