間章W
月影にそよぐ風
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が、そこへこの物語に触れている文章が見つかっているのである。
- 我は夢で御使いより御告げを聞いた。御使いはとある少女を我に見せ、彼の者は十一の歳を過ぎたれば天へ還る定めなりと言った。我は少女を憐れに思い、どうしても天へ還らねばならぬのかと問うた。世には多くの善き事柄もあり、沢山の喜びもあるゆえ、それらを学んでからでも良いではないのかと。すると御使いは我に、ならば汝の手で助くるべし。しかし時は長く保つことを許すことなからんと言った。 -
大司教の想いがどこにあったのかは知られていないが、当時若くして亡くなる者なぞ珍しくはなかった。そのため、時の終わりを知れる者に、多くを学ばせたいと大聖堂に医師や薬師を拡充し、民の治療に専念させていたのであった。
ある日、いつものように大聖堂の見回りに訪れた大司教は、夢で見せられた少女に出会った。聞くと、その伯父がここで司教として働いていると言うではないか。神の命と思った大司教は、直ぐ様その人物を呼び寄せ話したと言われている。
「クラレス伯父様!」
大聖堂に入るや、レイチェルは目敏く伯父のクラレスを見つけ、彼に声を掛けたのであった。
レイチェルの声を聞き付けたクラレスは、仕事の手を休めてレイチェルの元へと歩み寄って来たのであった。
「よく来た。体は大丈夫かな?」
「はい。父様と兄様に背負ってもらってきたから、私は平気よ…。」
レイチェルの背後には、父のアンソニーと兄のペーターの姿があったが、その表情は疲れと言うより寧ろ、レイチェルの体調を心配している風であった。
そんな二人にクラレスは、近くあった椅子を勧め、その言葉に二人は素直に甘えることにした。
「レイチェルのことは心配ない。暫くここで休むといい。」
「兄さん、レイチェルを頼みます。」
そう短く話すと、クラレスは直ぐにレイチェルへと視線を変えた。
クラレスは医学も若い時分より学んでおり、アンソニーはそんな兄を信頼していたのである。まさか司教になるとは思っていなかったようであるが。
「伯父様、今日はどれくらい掛かりますか?」
レイチェルは、振り返ったクラレスに向かって問い掛けた。来る度に質問攻めに身体検査で、一時間も掛かるのはザラであったのだ。そのため、レイチェルは予め聞いておきたかったのであった。
「診察にはそう時間は掛からないが、薬を作るのに少々手間が掛かるやも知れない。」
この当時、医学は未だ未発達と言えた。故に、大半の薬は薬草の細やか調合によって分けられ、内容はさして変わるものではなかった。
だが、レイチェルの薬だけは違っていたのである。彼女の病は今まで見たことの無いもので、クラレスは「雪薔薇病」ではないかと診断していた。そのため、大聖堂の地下にある聖コロニアスの墓所の一角に咲く雪薔薇を薬に調合してい
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