間章W
月影にそよぐ風
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こに来てくれた沢山の方々に…ありがとうと…。」
クラレスの心にレイチェルの声が響いた。それは刹那の幻だったのかも知れない。今、この場に聖エフィーリアが姿を顕し言葉を紡いだことさえ、人の身の現実よりあまりにも遠くかけ離れたこと。クラレスはそう心の中で思ったのであった。
しかし、そう感ずるクラレスの心に、エフィーリアは直接語りかけた。
-クラレスよ、恐るるなかれ。原初の神は、如何なる時も汝と共にあり。さぁ、これより先の者等に伝えよ。自らに善き行いを他の者に施せと。与える者は幸いなり!そは原初の神に喜びを与えん者なれ!奪いし者は禍なれ!そは原初の神の怒りを受くる者なれ!-
そう聞こえたかと思うや、エフィーリアも聖人達も、淡い霧の如く消え去ってしまったのであった。
それは紛れもない現実であり、告げられた言葉は真実であった。故に、クラレスの心は喜びで満たされ、また、畏れを抱き祈るのであった。それはまた、周囲に集まりし人々も然りであり、皆一瞬の出来事に狼狽していたのであった。
だがしかし、モニカは我が子レイチェルが既に冷たく横たわるを知り、骸と成り果てた我が子を抱き嗚咽を洩らしていた。
「あぁ!何故に私の娘を!何故にレイチェルなのでしょうか!」
その答えは誰にも出せぬものであろう。エフィーリアはそれを答えていってはくれなかった。恰かも、それは人間が考えねばならぬことだと言っているようである。
窓の外には人々の心など知らぬかの如く、夜空に浮かぶ大きな月が大地を照らし続けていた。
それもまた、偉大なりし原初の神が創り給うたものであり、人々を愛して止まぬ神の御心の現れなのかも知れない。
その月影にそよぐ風は、レイチェルへの名残を惜しむかのように、人知れず静かに吹き去っていったのであった。
この物語は、ここまでで途切れている。
一説によると、この物語はこの先で別の話へと移行すると考えられている。その理由として挙げられているのが<聖文書大典>の“リーテ伝”である。
“リーテ伝”は以前にも触れたが、時の王リグレットに関する記述が中心となっているものである。その中に同一の物語の記述があるのであるが、地名や人名など大半が違っており、偶然ではないかとの意見もある。しかし、果たしてそうであろうか?
聖エフィーリアを中核とする“ヴァース伝”にこの話は入れられてはいない。かなりの部分に不明確さが認められ、特に、エフィーリアが偶像崇拝を窘める場面には違和感があるではと、現代の宗教学者達の間では論議され続けている。
この物語には、一体どのような意味があるのであろうか?その答えは、未だ見い出されていないのが現状であるが、私にはこうも思えるのである。
それは、人の傲慢さというものは、自らでは分からぬものだとの戒めなのかも知
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