第18話『亡霊の悪鬼〜テナルディエの謀略』【Bパート】
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ヴァレンティナが感情を押し殺したような声で返す。
「ライトメリッツの……まつろわぬ民の末裔です」
「なっ……!!」
「なんだって!?」
凱とフィーネは声を思わず荒げた。
以前フィグネリアは傭兵として渡り歩いていた『根無し草』だったころ、テナルディエ側に雇われていた時期があった。
その雇い主は信頼に値するか、そうでないか、それ次第では戒める必要があるか、彼の経歴も含め丹念に調べ上げた。
だが、テナルディエ家がジスタート公国の一つ、銀閃アリファールが主、エレオノーラ=ヴィルターリアの治める『ライトメリッツ』の末裔だという話は、一度も耳にしたことがない。
「知らずとも無理はない」
王の発した言葉のそれは、『むしろ知っているほうがおかしい』と言わんばかりの口ぶりだった。
「今一度聞くが、シシオウ君。そなたはテナルディエ公をどこまで知っているか?」
「貴方達を前にして『知っている』だなんてとても言えません」
戦慄を込めた声で凱が告げる。「名前くらいは」などという軽い言葉を交わしていいはずがない。
そして懐に手を入れて、ヴィクトールは一枚の紙きれを凱に差し出した。
「……これは写真?」
「その通り。シャシンに写りし男こそ、フェリックス=アーロン=テナルディエだ」
『鬣』――そう一言に尽きる獅子の如き髭。
壮年に入っているにも関わらず、衰えているとは思えない『眼光』。
人間の手で描かれたとは思えない肖像画を、フィーネは感嘆のため息をつきながら、凱の脇からのぞき込む。
「そんな奴だったとはね……ガイ、あんたは会ったこと……いや、ないか」
「俺もティグルやマスハス卿から話くらいしか聞いたことがないけど……君の様子を見る限り、フィーネは一度会ったことがあるみたいだね」
「まだ20になる前のころ、ある戦場でテナルディエ側に雇われていた。『とある傭兵』を討ち取れと――」
凱の察しに及ばないほど、フィーネの感情に陰りが生じる。彼女が口にした『とある傭兵』とは一体誰のことだろうか。それは今口にすべきことではない。
ともかく――
この案件の中心人物たる凱は、まだテナルディエ本人に会ったことがない。そのためにわざわざ『写真』という特殊な皮羊紙まで渡しているじゃないか。
それを裏付ける反応は、凱自身が示している。
そして、王の言葉は再会される。
「でも……一体どういうことですか?ライトメリッツの末裔といっても、それがジスタートとブリューヌに何の関係があると?」
尋ねる『勇者』に、『王』は無言で、僅かに目を伏せる。
「そうですか。おそらくテナルディエ公爵の祖先と黒竜の化身の間に、俺たちには図り難い『因縁』があるようですね」
それも、長きにわたる――とは付け加えなかった
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