第18話『亡霊の悪鬼〜テナルディエの謀略』【Bパート】
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【ジスタート・王都シレジア・ヴァレンティナ屋敷・防諜会合室】
眠れる獅子……その男の名は――
「シシオウ……ガイ」
ヴィクトールは、使い慣れぬヤーファ語でその名をつぶやいた。
傍らにいる戦姫――ヴァレンティナ=グリンカ=エステスによれば、獅子王凱と名乗る人物の前に、かつての英雄『ヴィッサリオン』と同じように、竜具アリファールが出現したというのだ。
本来、戦姫たる女性にしか現れぬ竜具が、男性の前に現れるなどありえない。それがジスタート建国神話を知る人間の見解だ。
しかし、それが想定を覆す事実だとしても、目の前に告げる現実は結局のところ変わらない。
黒船来航――奏でる四曲の汽笛に『夜』も眠れず。
先進的な文明からの侵略に対し、古来の伝統工芸では対抗しきれない。だからこそ、『学者』にして『勇者』のヴィッサリオンが選ばれたのだろう。
そう――獅子王凱もまた同じように?
「そなたらは『シシオウ=ガイ』という人物を知っておるようだが、余は全く何も知らない」
先ほどから聞いている限り、周りが太鼓判を押すほどの実力があるのなら、その点なら心配いらないかもしれない。
ただ、彼の人格や生い立ちなどは、話だけで理解できるなどできようはずもない。
ヴィクトールの言葉に、シーグフリードは軽く「なるほど」とつぶやいた。
「へぇ〜なるほど……なるほどなぁ〜」
銀髪の人物はせせら笑う。
虚影の戦姫は、本性たる影に潜む彼の歪んだ笑みを見つけた。
それは、見つけてはならない笑み……だったかもしれない。その場にいた全員、エヴァドニ以外の背筋に悪寒が走った。
(この感覚……ガヌロン侯爵と対峙したときと同じですね)
ヴァレンティナの竜具がかすかに警告を促す。
そして――
このときヴィクトールは思った。ひょっとしたら、余は口にしてはならぬことをしてしまったのではないのかと――
「……シーグフリード。あなたは何を考えているのですか?」
「つまらんことだ。『勇者様』の実力を知ってもらうのに、どうしたらいいかと考えていただけだ」
軽く流された。
「シーグフリード」「いきり起つなよ女狐。どうせ同じこと考えていたんだろう?」
女狐とはヴァレンティナのことだ。少なくとも、シーグフリードにとって、彼女はそういう認識だろう。
――『影』という性質故に、ただ似ているから、心理を読めてしまうのだ。
とはいえ、かぞえきれない死線を潜り抜けたシーグフリードの『洞察力』をもってしても、彼女の『影』のような思考を読むことはできない。
幾重にも用意された尻尾の数。本物を掴ませないところなど特にそうだ。
故に狐。それで呼び名は十分と。
「数多の……悪魔……魔物…
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